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日蓮大聖人・池田大作

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はしがき  

「吉川英治 人と世界」土井健司(池田大作全集第16巻)

前後
1  私は、人間が好きである。
 とくに庶民が好きである。
 私は、貴族ぶった人間が嫌いである。
 権威ぶった人間が大嫌いである。
 私は、名もない貧しい庶民の出である。
 ゆえに、生きぬいていこうとする人間が好きである。
 こうした私の心情から、吉川英治氏の小説のなかに共感するものが多い。氏はその作品で、庶民とともに、民衆とともに、虚飾なき人間の心に照準をあてながら、波瀾万丈のドラマを展開していく。そこに、不滅の大衆文学として、多くの人々を共鳴、共感させゆく鍵があると言ってよい。
 偉大にして壮大なドラマの主役は庶民であると、陰の世界に光を当てているところに、氏の温かさと、厳しさと、深さを知り、氏の作品を賛嘆したいのである。
 どういう縁か、吉川文学との出合いは小学校五年生の時であった。担任の桧山浩平先生が、まるでご自身が宮本武蔵になったつもりで、授業の時間をさいてまで、何回となく読んでくださったのが初めである。
 さらに不思議なことに、青年時代、私の人生の師である戸田城聖先生も、『三国志』などの吉川文学の作品をとおしながら、さまざまな角度から人生の生き方を語ってくださった。その他にたくさんの作者・作品もあるが、十歳の少年の心のカンバスを染め、小さな種を植えつけた吉川文学は、今や大樹に育っているようである。
 やがて吉川氏の生誕百年を迎える。氏がつねに側にいる人、側で語る人、側で見てくれている人、側で励ましてくれる人との感をおぼえるのは、私一人ではないであろう。
 思い出深き青梅の里で、青年とともに吉川氏を囲み、歴史と文学と人生のロマンを語り合うような思いで、この対談を進めさせていただいた。
 もとより体系だてた論じ方ではなく、十分に意をつくせていないが、吉川氏は、あの大らかな笑顔で受けとめてくださることと思う。
 吉川氏ゆかりの軽井沢にて
 平成元年の終戦記念日に――  池田大作

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