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日蓮大聖人・池田大作

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時代の終わりと始まり―― あとがきに代…  

「大いなる魂の詩」チンギス・アイトマートフ(池田大作全集第15巻)

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5  簡潔にして明瞭。暴力を革命の“助産婦”とするマルクス・レーニン主義のアキレス腱を突いて、見事というしかない。四半世紀におよぶ社会主義の人類史実験が、無残なカタストロフィーを余儀なくされた根因はその人間観にあることを、静かに断固たる口調で、ガンジーは言いきっているのだ。
 そして、重要なことは、資本主義や自由主義の“勝利”が、決してそのまま、この人間観の問題に光を投げかけるものではない、ということである。人間が人間を、一国が他国を支配し、搾取することのない、平等と正義に貫かれた世の中を目標とした社会主義イデオロギーは、たしかに“敗北”したかもしれない。しかし、そのあと我々が目にする世界は“勝利”というにはほど遠い、寒々として荒涼たる風景ではなかったか。
 計画経済の破綻が示したものは、人間は所詮、自分の利害を優先して働く利己的動物であるという身も蓋もない現実であったし、プロレタリア国際主義の虚構が崩れ落ちたあとむきだしになったのは、民族主義の凶暴なまでに荒々しい情熱だった。それらは、どう見ても、かつて社会主義が濃密に体現していた夢、希望、未来といった“開放系”のエネルギーではなく“閉鎖系”のそれである。自由主義や民主主義にしても、環境破壊など迫りくる地球的問題群に対してどこまで有効であるかは、保証のかぎりではなかろう。
 現状は、冬景色とまでは言わなくても、野焼きを終えたあとの赤茶けた地肌に似ていはしないか。その大地に、どのような新草が萌えいずるのか。いや、時は待つべきものではない。自然の理とは違い、待っていても時はこない。作り出さなければならない。そのためにも、立ち返るべきは人間であり、限りなき財宝の可能性を秘めた人間の内面である。
 「内面へのはるかな旅」という私の問題提起を、アイトマートフ氏は「わかるような気がします」と、謙虚に、深く首肯してくれた。書簡のやりとりを中心にしたこともあって、私たちの「旅」は、意を尽くしおえたとはとうてい言えない。「はるかな旅」はまだまだ、永遠につづいていくのである。そう、アイトマートフ氏が、上巻のまえがきで「私たちはもっと前から、お互いに知り合う前から、話をしていた」と語っているように、永遠に――。
    一九九二年三月  池田 大作
 Z・ブレジンスキー
 一九二八年―。アメリカの国際問題研究家、政治家。
 CIS
 独立国家共同体。旧ソ連の共和国のうち十一カ国が参加して一九九一年十二月に作った連合体。
 ヴェルギリウス
 前七〇年―前一九年。ローマの詩人。
 R・アロン
 一九〇五年―八三年。フランスの社会学者、ジャーナリスト。
 プロメテウス
 ギリシャ神話の英雄。天上の神の火を盗んで人間に与え、ゼウスの怒りをかった。

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