Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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「人間疎外」をもたらす要因  

「大いなる魂の詩」チンギス・アイトマートフ(池田大作全集第15巻)

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7  そこで、演繹的に発想を転換してみましょう。と言いますのは、そのような現代文明が産み落としたさまざまな事ども、換言すれば可視的な世界を一挙に跳び越えて、その世界を包摂する不可視な世界へと自己を拡大しゆく手立ては、はたしてないものかということです。
 そうです。それは、ある意味では、あのファウスト的野心と通ずる側面さえ有していると思うのです。
 おれは人類全体にあたえられたすべてのものを、
 内部の自己で味わいつくすのだ。
 おれはおれの精神で、もっとも高いものとともに、もっとも 深いものをつかむ。
 おれはおれの胸のなかに、あらゆる幸福とあらゆる悲嘆をつみかさねる。
 そして、おれの自我を人類の自我にまで押しひろげ、
 ついには人類そのものといっしょに滅びてみよう(前掲『ファウスト』)
 「……滅びてみよう」はともかく、こうしたファウスト的な、不敵な自己拡大の試みほど、衰弱した現代人から縁遠くなってしまったものもないはずです。たしかに、それは、人間の傲慢、ドストエフスキー流に言うならば「人神」へと傾きがちな側面も有しますが、正しく導かれるならば「我即宇宙」として、ミクロ・コスモスとマクロ・コスモスの融合を説く、仏教的宇宙観にも通じていくはずです。私が、ユングの「東洋的英知」という言葉に言及したのは、そうした演繹的発想が念頭にあったからです。
 そうした時間的、空間的な自己の拡大は、ユングらによって進展させられた深層心理などによっても裏付けられているようですが、それはまた、あらためて論じましょう。

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