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日蓮大聖人・池田大作

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民話のもつ意義と普遍性  

「大いなる魂の詩」チンギス・アイトマートフ(池田大作全集第15巻)

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13  池田 あなたのお話の中には、素晴らしい言葉が珠玉のように光っております。たしかに民話には国境はありません。それは、民話には結局は、人間普遍のテーマが扱われているからです。さらに言えば、民話はインタナショナル(世界的)であると同時に、コスミック(宇宙的)でもあります。ギリシャ神話などの神話の世界はいうまでもありませんが、たとえば日本の古い説話である『竹取物語』では、かぐや姫は月に帰っていきます。宇宙との生命的な交流は、まさに自由な創造力がもたらしたものです。
 ある日本の著名な科学者は、物理学を学ぶには、ギリシャ神話を読むとよいと言っておりますが、それはそこに表れている想像力、空想力が、科学を発展させる創造力にも通うものであるからだと言うのです。
 そして、そうした世界の主人公は子どもたちです。長じても子どもの感性を失わぬ詩人たちです。よく引かれるように、「氷が解けたら何になる?」と聞かれたとき、大人たちは「水になる」と答え、子どもたちは「春になる」と答えた、と。子どもたちの答えの何とファンタスティックなことか。そこには、詩心があります。自然が息づき、宇宙の鼓動が聞こえてきます。
 それに対し、大人たちの答えの何とみすぼらしく、無味乾燥なことか。近代人が科学や知性の名のもとに、いかに多くのものを失ってきたか、歴然としております。近代が、中世の世界観に代わる新たな世界像を創出したというより、世界像なき時代であると言われるのも、ゆえなきことではないのです。
 コスミックといえば、これは民話ではありませんが、宮沢賢治の作品『銀河鉄道の夜』は、日本で最も親しまれている童話の一つです。作者はみずからの心象世界としての銀河系を描き、そこを鉄道で旅する少年の心の成長の跡をたどっている名作です。
 少年は、銀河をどこまでも旅していける切符を持っておりますが、その少年に呼びかけるこんな声が聞こえてきます。「さあ、切符をしっかり持っておいで。おまえはもう夢の鉄道の中でなしに、ほんとうの世界の火やはげしい波の中を大股にまっすぐに歩いて行かなければいけない」(新潮文庫)と。それがとても印象的なのですが、美しいファンタジーの中にも一つの信仰を教えるほどまでに人生を励ますものがあります。
 いずれにせよ、磁石が必ず北をさしているように、優れた民話や童話には、永遠に人間の心を照らし、心と心を結びつけてくれる光があります。
 ヤヌシュ・コルチャク
 一八七八年―一九四二年。ポーランドの教育者、児童文学作家。ユダヤ人の子どもたちをかばい、ナチスの収容所でともに殺された。
 宮沢賢治
 一八九六年―一九三三年。詩人、童話作家。法華経に帰依。

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