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日蓮大聖人・池田大作

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対話の重要性について  

「大いなる魂の詩」チンギス・アイトマートフ(池田大作全集第15巻)

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5  池田 信頼を相互理解の必須条件として強調していらっしゃることは正しいと思います。それにはまず第一に政治において信頼が必要です。それにしても、政治の世界における言葉が、今日のように堕落してしまったのは、いつからでしょうね。それは、政治そのものの堕落とまったく軌を一にしております。
 古来、政治は最も人間に本質的なもの、人間が人間であることの最大の要件でありました。
 それは、たとえばアリストテレスが、人間を定義するのに、第一に「政治的動物」とし、第二に「言葉を発する動物」とした点に、はっきり見てとれます。すなわち、人間は、家庭という自然発生的な場で生活しているかぎり、動物と本質的な差はない。そこを離れて、ポリスという共同体を形成し、そこで言論活動を行うことによって、人間になることができるわけです。
 古代ギリシャのポリスにあっては、政治の主役は権力や暴力による支配ではなく、言論による説得と合意にありました。政治活動は即言論活動であり、政治の世界における言葉は人間であることの最も尊い証でした。プラトンが、政治にたずさわり、政治を宰領する資格を、独り哲人に与えたのも、ゆえなきことではなかったのです。
 ポリスという小規模な場と、現代の大衆社会とは、たんに規模だけでなく質的にもたいへん異なっており、単純な類推は許されませんが、あたかも支配欲、名誉欲、金銭欲の奴隷となってしまったかのような現代の政治の世界にあって、言論や対話というものの昔日の栄光はまったく色褪せてしまったかのようです。
 あなたのおっしゃるダイアローグ(対話、対話劇)ならぬモノローグは、かつてのソ連のようなハードな形ばかりでなく、自由主義社会にあっても「孤独な群衆」(D・リースマン)といったソフトな形で、浸透しております。
 そこにおいて、対話を復活させるのは至難の業ですが、手をこまねいていれば、事態は悪化するばかりです。ともあれ、今日、政治は今までとはまったく別の、いわば、正反対の役割を果たさなければなりません。諸民族を引き離すのではなくて、単一の人類に結合させねばならないのです。
 アイトマートフ 政治が背徳的な芸術あるいはゲームから、真に気高い人道的な原則にのっとりつつ、心を開いて全人類的な問題を話し合う賢人たちの対話に変わってほしいと思います。
 池田 こうして私たちが好きなことを話し合って、お互いによく理解し合っていることも政治ではないでしょうか。
 アイトマートフ それはどうでしょう。ただ私はあなたと意思の疎通ができて幸福です。
 池田 私も同様です。あなたのおかげで、私はあなたが代表なさっている国民がよりよく理解できるようになり、前よりももっと好きになりました。
 孔子
 前五五一年―前四七九年。中国・春秋時代の思想家。儒家の祖。『論語』はその言行録。
 百十五カ国
 一九九六年五月の時点で百二十八カ国・地域。
 ノーマン・カズンズ
 一九一五年―九〇年。アメリカのジャーナリスト、小説家。平和運動で知られる。
 老子
 中国・周代の思想家。宇宙の根本原理を「道」「無」として無為自然を説いた。
 アリストテレス
 前三八四年―前三二二年。古代ギリシャの哲学者。多方面にわたる学的体系を立てた。プラトンの弟子。
 D・リースマン
 一九〇九年―。アメリカの社会学者。

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