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日蓮大聖人・池田大作

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大地への愛、平和への希求  

「大いなる魂の詩」チンギス・アイトマートフ(池田大作全集第15巻)

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5  池田 いやいや、「絶望」という言葉は、あなたに似つかわしくありません(笑い)。人類の未来に希望を託するからこそ、こうして語りつづけているのですから、「絶望」の二字は、今後タブーとしましょう。(笑い)
 それはそれとして、トルストイの『戦争と平和』は、そうした英雄としてのナポレオン像を打ち砕き、英雄像にまといついているさまざまな世俗的価値の矮小さを暴きだし、もって宗教的価値との勝劣の大転換をうながそうとしたものでした。名作に描かれるナポレオン像と、無名の一農民プラトン・カラターエフ像との鮮やかすぎるコントラストは、トルストイの志向したところをよく物語っております。
 ところで、現代に戻って、現在の人心の状態を考えてみたらどうでしょう。現代の人間の心情として、平和の思想は、どこかの陣営の、あるいはつい最近まで宣伝されていたように、「侵略主義」陣営に対する「平和愛好」国家陣営の純粋に政治的なドクトリンではなくなっているのではないでしょうか? 少なくとも、トルストイの志向したような平和の理念が、受け入れられる余地が生まれつつあるのでは……。
 アイトマートフ そのとおりです。あなたのおっしゃるとおり「絶望」という言葉を使ったのはうかつでした。撤回します(笑い)。平和の思想は人類共通の最大の価値であるということが、あらゆる人々に認識され始めていると思いますし、またそう信じたいところです。
 池田 そのような認識と世界観の基礎となっているものは、いったい何でしょうか。私は、それは、新しい生命観ではないかと思います。一個の生命の、ひいてはあらゆる生命の尊さを認めるところから発しているものです。
 アイトマートフ そうですね。人類は幾世代もの間、多くの苦しみと悲しみを経験して、精神的成長を遂げてきました。そして今、ついに、戦争は回避しえるかもしれない、不戦は可能なのだという認識までたどりついたのです。いまだかつてなかったことです。
 その人類が、自殺行為ともなりかねない戦争にふたたび走ることなど、絶対に許してはなりません。それでは、人間がおよそ人間になって以来このかた、幾多の犠牲を払って獲得してきた崇高な理想、理念がすべて無に帰してしまうからです。
 池田 そうさせないためにも、民衆が大事です。人類の進歩を加速させていくためには、ある種の楽観主義が不可欠です。
 民衆の自由の意識の進歩への信頼なくして、何事もなしえません。その信念に立って私は、「国家外交」よりも「民間外交」を唱え、平和のために走りつづけてきました。
 アイトマートフ 民間外交という行動は本当に新しい、素晴らしい現象です。平和のための強力な運動は見せかけのポーズであってはなりません。それは生きる手段であり、また何物をもってしてもとどめることのできない奔流にしていかなくてはなりません。
 その意味で私は、池田先生の平和行脚に、最大の敬意を払っています。
 池田 恐縮です。平和世界擁護の戦いは、つまるところ、グローバルな意識のための戦いだ、ということですね。このテーマについてはあらためて話し合いましょう。
 ナポレオン
 一七六九年―一八二一年。フランス第一帝政の皇帝。ヨーロッパを制圧したが、モスクワ遠征に失敗、連合軍との戦いに敗れるなどして、セントヘレナ島で没。
 pヒトラー
 一八八九年―一九四五年。ドイツの政治家。ナチス党首から首相、総統となって独裁権を得、第二次世界大戦を引き起こした。
 A・ペッチェイ
 一九〇八年―八四年。イタリアの実業家、ローマクラブの創始者。
 L・ポーリング
 一九〇一年―九四年。アメリカの物理化学者。ノーベル化学賞、同平和賞受賞。
 フロイト
 一八五六年―一九三九年。オーストリアの精神科医、心理学者。無意識と抑圧された性的衝動の働きから精神分析を創始、確立。
 アレキサンダー大王
 前三五六年―前三二三年。マケドニアの王。ペルシャ軍を破り、インドにまで進出し、大帝国を建設。

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