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日蓮大聖人・池田大作

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「口承文学」の遺産  

「大いなる魂の詩」チンギス・アイトマートフ(池田大作全集第15巻)

前後
5  池田 「死すべき運命をもつ」ということを仏教では「諸行無常」と説きます。「諸行」すなわち一切の事物は、「無常」すなわち常=不変なるものは何もなく、いずれは滅していく運命にある、とするわけです。ダイヤモンドのようにいかに堅牢な物であろうと、少しも同じ状態にとどまってはいず、刻々と変化し、いずれは壊滅していくことを免れない。人間の世界にあって、永遠の愛を誓った、どんなに仲むつまじい夫婦であっても、いつの日か、どちらかが死別していく定めにある。常なるものは何もない。
 しかし、だからこそ、一切が無常であるからこそ、人々は、その中に常なるものを希求しゆく、やみがたい衝動を抑制することができなかったわけです。「死すべき運命をもつ」からこそ、不死なるもの、常なるものの永遠性の世界を憧憬し、「限りある存在」であるからこそ、宇宙と一体化した全一なるものを求め、求めつづけてきたのです。
 それは、パスカルが言うところの「考える葦」――自然の“一突き”によって死んでしまうようなか弱い存在でありながら、なおかつ思考や想像力によって宇宙を包む――である人間が、真実、人間であろう、人間になろうとすることの証でありました。
 その意味では、「無常」の世界から「永遠性」「全一性」の世界への橋渡しをするという働きにおいては、芸術は、人間にとって、まことに本源的な意味をもっております。
 先に、エリオットの文化観にふれましたが、もう一つ美術史家のハリソン女史も「その初めにおいては同じ一つの衝動が人を教会に向わせ劇場に向わせるのである」(『古代芸術と祭式』佐々木理訳、筑摩書房)と述べております。洋の東西を問わず、宗教にかかわる事物に、建築、絵画、音楽、文学など、その当時の芸術の粋が尽くされてきたのも、それゆえであります。ヨーロッパにおける宗教芸術の数々も「愛」と「不死」まで昇華させようとする人間のやむにやまれぬ願望が生んだものでした。
 平曲
 『平家物語』に曲節をつけて琵琶の伴奏で語るもの。
 説経節
 近世初頭からの民衆芸能。仏教の説教を音曲化。
 ブイリーナ語り
 ロシアの口承された英雄叙事詩ブイリーナの語り手。
 アシュク
 カフカス地方の吟遊詩人。
 コブザリ
 楽器コブザを弾きつつ語る吟遊詩人。
 チンギス・ハン
 一一六七年―一二二七年。モンゴル帝国の創始者。ジンギス汗。
 ダビデ王
 前十世紀ころイスラエルを統一した王。
 パスカル
 一六二三年―六二年。フランスの哲学者、数学者、物理学者。主著に『パンセ』。
 ハリソン
 一八五〇年―一九二八年。イギリス。

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