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日蓮大聖人・池田大作

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文学者の社会的責任  

「大いなる魂の詩」チンギス・アイトマートフ(池田大作全集第15巻)

前後
4  アイトマートフ 思い出しますが、十年ほど前に、私は、アジア・アフリカ作家会議から、どういう問題に取り組むべきだと思うかという質問を受けて、その任務は、植民地主義の後遺症からの人間の心理的、精神的解放である、と答えました。
 今ならその答えをもっと拡大することができます。問題は、たんに特定の地域に関してだけではありません。我々全員に、すなわち、何らかの形で、名称はどうであろうと――もちろんそれぞれの具体的な場合に修辞上の訂正は必要ですが――「奴隷制的」体制の人質になっていた者すべてにかかわっています。
 人間を劣等感から解放し、人間の心に人間の尊厳を呼びさまし、真の友情を回復するためには、人間精神の発展に巨大な損害をもたらした植民地主義――および全体主義、封建的社会主義、等々――の後遺症をよく自覚し、理解することが必要です。それを人間の知性や心の中から完全に駆逐するためには、どんなに膨大な、しかも長期にわたる努力が必要になるかは、計り知れないものがあります。
 私たち芸術家は、植民地主義が人々の心の中に残していった「奴隷根性」「奴隷的自我」という問題について社会学的、哲学的考察をしなければなりません。
 そのような思索、考察を経て初めて、作家は真に人々を結びつけることが可能になります。民族や国家、人種の優劣という概念そのものが、いかにナンセンスであるかを、自分の作品の中で語ることができるようになると思うのです。
 文学の使命は人と人との結合をはかることであり、ひいては民族と民族をも結びつけることである、とは、レフ・トルストイの信念でしたが、その意味で文学者には、全人類的価値観に立脚していることが望まれ、その歴史的責務はまことに甚大だと考えます。
 アルビン・トフラー
 一九二八年―。アメリカの未来学者。
 アーサー・ミラー
 一九一五年―。アメリカの劇作家。
 ゴーリキー
 一八六八年―一九三六年。ソ連の作家。社会主義リアリズム文学を創始。
 エミール・ゾラ
 一八四〇年―一九〇二年。自然主義文学の確立に力。
 自然主義
 文学においては、十九世紀後半にフランス中心に起こった思潮で、醜悪なものも含めて現実をあるがままに描写した。
 モラリスト
 人間性についての考察を随筆風に書き著した人、およびそうした傾向の人々。
 ナポレオン三世
 一八〇八年―七三年。ナポレオンの甥。フランス第二帝政の皇帝。
 ドレフュス事件
 十九世紀末にフランスで起こった疑獄事件。ユダヤ人将校ドレフュスがスパイの容疑で終身刑にされ、人権擁護に立ち上がった作家ゾラなど知識人と軍部・右翼が争った。
 ネルソン・マンデラ
 一九一八年―。南アフリカの黒人解放運動の指導者。同大統領。ノーベル平和賞受賞。
 ムチャーリー
 一九四〇年―。南アフリカ。
 アジア・アフリカ作家会議
 一九五六年にインドのニューデリーで開かれたアジア作家会議をもとに、五八年に旧ソ連ウズベク共和国のタシケントで発足。

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