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日蓮大聖人・池田大作

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賢者の勲章、それは希望・友情――  

「大いなる魂の詩」チンギス・アイトマートフ(池田大作全集第15巻)

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15  時流の深層は、そして民衆の心は、いかなる鼓動を伝えているでしょうか。私と対談したトインビー博士は、歴史を学ぼうとするとき、水面のあわただしい動きにばかり目をとられるのではなく「水底の深くゆるやかな流れ」に注目するよう、うながしておられました。私は、その点に着眼すれば、「宗教性」や「精神性」「人間性」といった見えざる世界に価値をおいたソフト・パワーの時代は、確実に近づきつつあると信じております。そして、たとえば十九世紀のあの優れた大文学の数々を生んだロシアの精神性が、そのような時流の形成とどうして無関係でいられるでしょうか。
 「私は今、文学の生命力が感じられないことで苦しんでいます」とのあなたの言葉は、優れた文学者の発言だけに、また私の親しい友人の表白であるだけに、他人事とは思えません。日本においても言えることですが、グラスノスチによる言葉や情報の洪水は、それに反比例するかのように、言葉の内実の希薄化をもたらすことは否めません。厳しい言論統制下にあっては、限定されたものであっても、真実の言葉を求める渇きにも似た希求がありましたが、ちょうど、その反対の現象が現れるようです。
 しかし、それも一時のことでしょう。私は、歴史の淘汰作用を信じております。もちろん、“外野席”からの発言ではなく、みずからその流れの中で、流れを作る作業にたずさわりながら、そう申し上げたい。本年(一九九一年)六月、あのヨーロッパの“緑の心臓”と呼ばれる美しいルクセンブルクで語り合ったさい、あなたはおっしゃったではありませんか。――ヴィクトル・ユゴーを領袖とするロマン主義を古いと言う人がいるが、私は、そうは思わない。現代にロマン主義をよみがえらせる作業は、とても大切なこと、と。
 今こそ、決してあせらずに、その共同作業を始めましょう。この対談集も、もちろん、その一環です。ユゴーのごとく、善を語り、正義を語り、友情や愛を語るに、なんの臆することがありましょうか。マルクスの評判は、今や地に堕ちたかの感さえありますが、少なくとも、私は、彼が、大著『資本論』の冒頭に、次のダンテの言葉を引いた心意気は、壮とするものです。「汝の道を行け、そして人びとの語るにまかせよ!」(向坂逸郎訳、岩波文庫)と。
 十月革命
 一九一七年、レーニンらの指導によってソビエト政府が成立した革命。
 八月革命
 一九九一年八月十九日に起こった保守派によるクーデターの失敗による、ペレストロイカの本格的な進展をさす。
 『世界を揺るがした十日間』
 アメリカのジャーナリストのジョン・リード(一八八七年―一九二〇年)がロシアの十月革命を伝えたルポルタージュ。
 アウシュヴィッツ収容所
 ポーランド南部のアウシュヴィッツに、第二次大戦中、ナチス・ドイツは収容所を造り、多数のユダヤ人などを虐殺した。
 ミッテラン
 一九一六年―九六年。フランス。
 ソクラテス
 前四七〇年―前三九九年。古代ギリシャの哲人。対話によって無知を自覚させた。プラトンの師。
 ポスト冷戦時代
 第二次世界大戦後、アメリカを核とする資本主義陣営と旧ソ連を核とする社会主義陣営は、武力行使の可能性を互いにもって対立した。これを冷戦時代というが、ソ連が一九九一年に崩壊して終結。「それ以後(ポスト)」という意味でポスト冷戦時代という。
 兵営型社会主義
 スターリン体制としての旧ソ連の社会主義をいう。軍事的な党組織による国家一党独裁、命令主義、暴力的な治安維持などを特徴とする。
 フルシチョフ
 一八九四年―一九七一年。旧ソ連の首相を務め、平和共存外交と党内の民主化を進めた。
 ブレジネフ
 一九〇六年―八二年。フルシチョフ失脚の後、党第一書記となる。一九七七年には最高幹部会議議長(国家元首)を兼任。
 クレムリン
 モスクワにある古い城砦で、帝政時代に宮殿や寺院が設けられ、旧ソ連、ロシア連邦政府の諸機関が設置。旧ソ連政府をさす場合も。
 S・ツヴァイク
 一八八一年―一九四二年。
 コスモポリタン
 世界の人々を同胞とみなす人。世界主義者、世界市民。
 アインシュタイン
 一八七九年―一九五五年。ドイツ生まれの理論物理学者。特殊および一般相対性理論など、現代科学の発展に革命的役割を果たす。ナチスの迫害を逃れアメリカに亡命。ノーベル物理学賞受賞。
 EC
 欧州共同体。一九六七年に加盟六カ国で発足、その後、加盟国は増え、経済統合から政治統合への目的はEU(欧州連合)として実現されつつある。
 グロースマン
 一九〇五年―六四年。旧ソ連の小説家。
 ベルリンの壁
 一九六一年八月、東ドイツが西ベルリンへの亡命を阻止するために築いた壁。一九八九年に撤去。
 トインビー
 一八八九年―一九七五年。イギリスの歴史学者、文明批評家。人類史を文明の興亡盛衰の観点からとらえた。
 ヴィクトル・ユゴー
 一八〇二年―八五年。フランスの詩人、小説家、劇作家。ロマン派文学の指導者。ナポレオン三世のクーデターに抗して亡命生活も送り、その生涯は不屈のヒューマニズムに貫かれた。
 ロマン主義
 十八世紀末から十九世紀にかけてヨーロッパで盛んになった文学、芸術、哲学、政治などの思潮。感性、感情や形式の自由を近代的自我の主体のもとに重視し、表現する。
 マルクス
 一八一八年―八三年。ドイツの経済学者、哲学者。エンゲルスとともに、科学的社会主義を創始。弁証法的唯物論をもとに資本主義から社会主義への移行は歴史的必然であるとした。
 ダンテ
 一二六五年―一三二一年。イタリアの詩人。『神曲』など。

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