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日蓮大聖人・池田大作

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第五章 世界不戦を目指して  

「生命の世紀への探求」ライナス・ポーリング(池田大作全集第14巻)

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8  不信と相互理解
 池田 今でこそ米ソ関係が劇的に変化して、事情が変わりつつあるとはいえ、アメリカには相当根強いソ連への不信感がありますね。博士自身は基本的にソ連という国について、どんな印象をおもちですか。私自身は何度かの訪ソ体験のなかで、第二次大戦で最も多数の死者を出して苦しんだソ連民衆は、心から平和を望んでいると感じておりますが、この点についてはいかがでしょうか。
 ポーリング 池田会長は、ソ連国民全体が第二次大戦でたいへんな苦しみを経験したとおっしゃいましたが、まったくそのとおりです。彼らは第一次大戦とナポレオン戦争でも、同様の苦しみをなめております。
 アメリカが最も苦しい思いをしたのは、南北戦争のときです。これは、本当にすさまじい戦争でした。しかし、第二次大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争ではそんなに被害を受けませんでした。それぞれ五万人の戦死者を出しましたが。
 ですから、第二次大戦で多くの人命を失ったソ連国民が、世界平和を望んでいるのは疑いの余地がありません。私の初期の訪ソのころは、おおやけの行事における議題といえば世界平和にかぎられていました。
 池田 私との対談でログノフ総長が語っておりましたが、ソ連の人々は何度も何度も過去の戦争のテーマを取り上げ、訴えつづけているそうです。ソ連の作家の本や映画、テレビは、戦争の時代に大きなスペースをさいています。戦争が人々に、どんな苦しみをもたらすかをつねに想起させるためだと聞きました。
 ポーリング アメリカにはソ連への不信感があると言われましたが、それは主に資本主義者(権力のある人々)について言えることです。彼らは、社会主義を恐れています。彼らは、共産主義者は社会主義を唱道していると考えています。アメリカは社会主義政権と共産主義政権との区別がなかなかできない。
 たとえば、ニカラグア政府のことをいつも共産主義政権と称していますが、私としては社会主義政権と呼ぶのが正しいと思います。アメリカは、ニカラグアの社会主義政権の存在そのものに反対しているわけではありません。アメリカが主として恐れているのは、他のラテン・アメリカというか、南米の諸国に同様の政権が増えていくことなのです。
 池田 私が親しくしているオキシデンタル石油会長のアーマンド・ハマー博士は、米ソ首脳会談の実現のために尽力してきた人物として知られていますが、一つのエピソードを話してくださいました。
 一九八五年、ハマー博士が当時のゴルバチョフ書記長を訪ねたさい、書記長は「私はレーガン大統領に会いたくありません。彼は戦争を望んでおり‥‥私たちを『悪の帝国』と呼んでいます」と言って、レーガン大統領に対する強い不信感を示したそうです。レーガン大統領に直接会って判断するようすすめるハマー博士の助言もあって、最終的にその年、ジュネーブの米ソ首脳会談が実現します。
 結局、不信感を取り除くには、心を開いた交流で相互理解をどう進めるかがカギだと思います。米ソ間で冷戦終結が確認されて以来、多くの分野で交流が盛んになりつつあるのは大事なことです。相互理解が進めば、軍縮の進展にも好影響を与えることは間違いありません。
 ポーリング 冷戦時代には「ソ連に条約を守ることを期待するのは無理な話だ」という発言がよくなされました。しかし、事実は違います。この問題を研究した歴史家たちが一様に述べていることは、ソ連政府はアメリカやその他の諸国と同じくらい、締結された条約を条文どおり厳密に守ってきているということです。
 池田 固定観念というものの恐ろしさですね。それは、悪酔いをひきおこすかのように、人々の頭のなかを不信と憎悪の酩酊状態へと誘いこんでいきました。日本でも一時″ソ連脅威論″なるものが、盛んに喧伝されました。
 こうした固定観念を取り除くには、さまざまなレベルでねばり強く交流と対話を繰り返していく以外にないようです。モスクフを訪問したレーガン大統領が、″ソ連・悪の帝国論″を放棄せざるをえなかったように‥‥。
 ポーリング ソ連とくらべて、その点、アメリカはどうでしょうか。アメリカ政府が、アメリカインデイアンと結んだ条約にかぎって言えば、その成果はかんばしくありません。アメリカ政府は、アメリカインデイアンと締結した条約の多くを破棄してきました。その他の条約について言えば、アメリカはソ連とほぼ同程度の良い成果をあげております。オハイオ州立大学の、ある歴史学者がそうした分析をおこない、その結果、ソ連はよく条約を堅持すると報告しています。

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