Nichiren・Ikeda
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第十三章 宇宙に生死はあるの…
「宇宙と仏法を語る」(池田大作全集第10巻)
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17 “不滅の陽子”にも死がある
―― この宇宙のあらゆる星も生物も、人間の身体もすべて素粒子という、まことに小さな存在から成り立っているわけです。つい最近まで「陽子」と呼ばれている素粒子だけは死なない、つまり不滅とみられていたようですね。
木口 ええ、この「陽子」というのは、ご存じのとおり万物のもととなる原子の核をつくっているものです。
―― この陽子と中性子で核ができあがり、その周りを電子が回っているわけですね。
木口 おおざっぱに言うと、そうなります。
ところがこの陽子でさえも、理論的には、やがて壊れることが明らかになりました。
仏法が説く無常の大原則から、迷い出た孤児ではなかったわけです。(笑い)
事実、昨年(一九八三年)の夏から、東大理学部のグループが、アメリカ、インドにならんで「陽子崩壊実験」に取り組んでいます。
池田 それがこのまえ、新聞(一九八四年一月五日付朝刊)で大きく報道されたものですね。よくわかりました。
木口 ええ今回、確認されたわけです。
―― 私もちょっと取材してみましたが、岐阜県・神岡鉱山の坑内に実験場があるそうですね。
木口 厚さ一千メートルほどの岩石で囲まれた地底に、三千トンもの水を入れたタンクを置いて実験しているそうです。
池田 ずいぶん大がかりな実験ですね。
木口 宇宙線などの影響をさけ、遮断するため地下深く入らなければなりません。
―― 「陽子の死」を正確に確認するためには、タンクの水の中に含まれている膨大な数の陽子が、自然崩壊するのを待つわけですね。
池田 たしか「陽子」の寿命は、宇宙の年齢を百億年とみた場合、その百億倍という人知をはるかに超えたものと推定されている、という話を聞いたことがありますが。
木口 そのとおりです。
―― そんなに寿命の長い、しかも目に見えない小さな「陽子の死」を発見することができるのですか。
木口 ええ、そこがやっかいなのです。実際ビッグバン以降からいまにいたるまで、崩壊した「陽子」は微々たるものだといわれています。しかし、寿命が長いといってもそれは平均寿命ですから、たくさんの「陽子」があると、いくつかは早死にするわけです。
理論的には、年に数個その死が確認されることになっています。
―― なるほど。
木口 この陽子の研究は、私たちの日常生活とは直接に関係ありません。しかしこの研究により、この宇宙に、どのようにして物質があらわれたかがわかるのです。これは、万物の生の研究なのです。
―― そうした新たな真理を証明するには、簡単な机上の実験ではわからないということも、また示唆的ですね。
木口 そうなんです。科学が進歩すればするほど、残されたナゾは少なくなりますが、半面、解明が複雑で、むずかしくなってきます。そのための費用と人手も莫大なものとなってしまいます。
―― ところで最近、科学の進歩によって生まれたビニールや発泡スチロールなどは、生活には便利のようですが、なかなか分解しないし、腐りもしない。やっかいものになっていますね。
木口 やはり万物は生と死を繰り返すのが、自然のリズムなんですかね。乾電池などもたいへんな問題になっていますね。科学は、人々に多大な恩恵を与えるが、ときによっては、害を与えてしまう場合があります。
池田 人々は、ふだん恩恵を追い求めるばかりで、あまり害のことは意識しない。
だが科学は、あくまでも諸刃の剣であることを忘れてはならない、ということでしょうね。
木口 まったく、そのとおりです。科学する者が、最も心しなければならない問題です。
科学だけが暴走しかねないわれわれの時代には、科学と矛盾せず、止揚しゆく哲学、宗教は絶対不可欠と思いますね。