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日蓮大聖人・池田大作

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核融合研究と国際協力  

「第三の虹の橋」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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1  池田 核分裂からエネルギーを得ることは、今日、各国で原子力発電所がつくられ、現実化していますが、これには危険な放射性物質の拡散という問題が付随します(世界中で行われている原子力発電による電力生産の実践は、ソ連のチェルノブイリ原子力発電所の事故にみられたように、ひときわ厳重かつ周到な尺度で保安、安全操業にあたらなければならないことをきわめて明確に裏づけております)。そうした心配のないのが核融合反応によるエネルギーの確保です。しかし、核融合反応を制御し継続させることは、まだ成功しておらず、これからの大きな課題です。
 核融合を起こすためのプラズマ臨界条件――すなわち温度・一億度、密度・一立方センチメートル当たり百兆個、閉じ込め時間・一秒以上――を達成するためには、一部で核融合反応の実験的成功が報告されているものの、なお、多くの課題が残されているのが実情です。
 また、高エネルギー中性子に耐えうる容器材料の開発、放射性三重水素の人体への影響、核融合反応で得られるエネルギーと反応を起こさせるために要するエネルギーの収支、さらに膨大な研究開発費等の点で、一部に、実用化を疑問視する声も出ています。しかし、これらの困難があるがゆえに、また、実用化へ世界の研究者が手を取り合っていくことの価値は、より大きいといえます。
 現在、核融合の主流は、トカマク方式が一歩進んでいるように見えますが、他の方式の基礎研究にも力を注ぎながら、二十一世紀のエネルギー開発へ、人類が前進していくよう念願する一人です。実用化への見通しと、研究体制のあり方についてご見解をお聞かせください。
2  ログノフ 今日、制御された核融合の諸問題を解決するための各種の方式がありますが、その一つがプラズマの電磁閉じ込め方式です。ソ連でこの考えが提起されたのは一九五〇年代のことでした。プラズマを電磁的方法で閉じ込める作業を進めているソ連その他の国における主要な装置はトカマクです。トカマクは変圧器に似た電磁力学的装置で、その二次コイルになるのがドーナツ形をした閉鎖状プラズマ電流なのです。
 このプラズマは一次コイルを電流が通過することで誘導される磁界の影響を受けてドーナツ状の真空容器中のガスに電流が流れるさいにつくりだされ、磁界によってプラズマ中の電流量が増大します。数十万アンペアないし数百万アンペアまでの大型装置の場合、プラズマ中の強力な電流が一定の温度までプラズマを過熱します。それよりもさらに高い温度に達するためには補足的な過熱が必要です。またトカマク内のプラズマを閉じ込め安定させるため、強力なトロイダル電磁場がつくりだされます。
 トカマク方式の装置による研究を最初に実施したのはソ連でした。現在、制御された核融合の研究は世界の多くの国で行われています。
 一九七八年末、ソ連等の前向きの姿勢により国際核トカマク「イントール」の製作が開始されました。このプロジェクトを実施するため、国際原子力機関にソ連、EC連合、アメリカ、日本の学者・技術者で構成される国際作業グループが結成されました。国際原子力機関事務総長の諮問機関である国際核融合研究評議会は、トカマクによる核プロジェクトの範囲内で実験装置を製作する課題を立てました。実験的トカマク、すなわち、重水素と三重水素の混合プラズマによる核融合反応を長時間燃焼させる原子炉の製作が予定されています。
3  あなたは、核融合反応によってエネルギーを受け取る方式にはまだ多くの未解決の問題が残っていることを正しく指摘しておられます。制御された核融合の研究やトカマクの研究では持続核連鎖反応の点火条件に近い顕著な核エネルギーの発生をともなうプラズマ運動を研究する課題が日程にのぼっています。
 このような実験を準備し、実施するさい、複雑な工学的諸問題が起こります。それは、まず第一に、核融合炉を製作するための炉材料の開発、三重水素をあつかうさいの保安の問題、超電導電磁方式の利用、大型装置でのプラズマ過熱、燃料注入等の問題です。学者たちは、放電室用材質を開発する問題を“第一隔壁”の問題と名づけました。つまり、複雑な放射プロセス、熱的プロセス、そして化学的プロセスがそこで行われる核融合炉の隔壁のことをいっているのです。この難問が首尾よく解決されないかぎり、高性能の核融合炉を完成することはおそらく期待薄でしょう。専門家の多くは、炉壁に最も適した材質は各種の合金、とりわけ、バナジウムとアルミニウムをベースにした合金であると考えています。しかしながら、この問題は最終的にはまだ解決されておらず、今後の研究が必要とされます。
 三重水素保安の問題に一言ふれさせていただきます。保安システムを設計するさい、融合炉の建物内の空気中の三重水素含有量を制限し、許容量を超えないよう配慮されています。融合炉としてのトカマクの将来性を条件づける重要なパラメーター(母数)は、生産されるエネルギーと、プラズマ過熱に費やされるエネルギーとの相対比です。この比率はできるだけ大きくすべきで現在、多くの学者がこの課題に取り組んでいます。
 あなたが指摘されたように、核融合の主流は現在のところトカマク方式ですが、トカマク方式以外に別の方式もあることを忘れてはならないでしょう。私見では、トカマクだけでなく、他の方式も実用化の可能性があると思います。
 たとえば、一九五三年、ソ連のアカデミー会員ブドケルは磁気栓・トラップ方式を用いた融合炉の開発方式を提案しました。この方式では力線が、トカマクにおけるように、輪状に連結することはありません。プラズマの漏れを防ぐため、磁力線の先端に補強磁場として磁気栓がつくりだされるようになっています。
4  一九七〇年代半ばまでは開放磁気トラップの研究の基盤に置かれた原理では、経済的に採算の合う融合炉を製作することができませんでした。それで、この方式に対する関心が薄れ、西ヨーロッパも含む多くの実験研究室ではトカマクの開発に切り替えたのです。
 一九七六年、ソ連科学アカデミー・シベリア支部核物理学研究所で、のちにアメリカでもオープン・トラップ内にプラズマを保持する方法を根本的に改善しようという構想が提起されました。そして、そのための実験装置が製作され、そこでプラズマ保持の進んだ方式が確認されました。その原理を完成させた専門家は、この方式は核融合炉開発の領域で注目に値するものの一つと考えています。
 一九六〇年代初頭、制御された核融合にレーザーを活用するという考えがソ連のバーソフ・アカデミー会員によって新たに提起されました。レーザーによる核融合方式の研究と、それに必要なレーザー技術の開発作業が始まりました。実験の結果、レーザー照射、中性子放出という新しい現象が発見されました。この方式は、プラズマを磁気によって保持するのではなく、慣性によって保持するという原理に基づいています。
 この方式の実験装置はソ連のほか、アメリカなど、若干の国にあります。実験の結果、このようなレーザー照射による標的点火のためには非常に高い照射密度が必要であることが判明しました。そのうえ、融合炉の標的のためにも効率の高い、強力なレーザーが必要であることがわかり、現在この方面での研究がつづけられています。
 現在、重いイオン・ビームを使って核標的の爆縮を起こさせ核融合を行う方法が研究されていますが、この方式もプラス面とマイナス面をもっています。プラス面は、イオンから標的物質にエネルギーを運搬するメカニズムが簡便で確実なこと、非核反応的高エネルギーですが、かなり小さな電流のイオン・ビームを用いうること、重いイオン・ビームを加速させるため、高い信頼度とかなり大きな効率を備えた改良型加速器を用いうることです。しかし、核標的の作業を安全に進めるのには重大な障害が起こります。
5  高温プラズマの中で重水素と三重水素の核融合エネルギーを得るという従来の方式と並んで、重水素・三重水素反応と重水素・三重水素混合物との触媒反応のためミューオン(ミュー中間子)を使う方式も注目に値します。今日の評価では、ミューオンは上述の混合物の中で百以上の融合反応を触媒することが可能とされていますし、この場合ですと高温も必要ありません。ミューオンは荷電を中和させるからです。
 ソ連でこの研究が始まったのはポノマリョフ、ゲレシティン、ジェレノフ三博士の努力によるものです。しかし、そのさい放出されるエネルギーは今のところミューオンの生産費をあがなうには足りません。ですから放出される中性子を活用する必要があるのです。廃棄物利用法の一つとしてプルトニウム中のウラン238をプルトニウムに、あるいは、トリウム232をウラン233にする加工法のプロジェクトが検討されています。
 ミューオンとこれまでの方式をブリッジングして一つのシステム――高エネルギー素粒子による核エネルギーをつくる――に統合すると、大きな効果が生まれます。現在、仮称「混合ミュー触媒炉」と呼ばれる方式が入念に研究されています。この方式は高エネルギーの重水素ないしトリトンの加速器を含んだものになります。
 すなわち、①標的――そこでは加速ビームがπ中間子を生み、エネルギーの約三〇パーセントを失う、②コンバーターと呼ばれる特殊標的――そこではπ中間子ビームがミュー中間子に変わり、その中からミューオンがウランに取り囲まれた重水素・三重水素混合物に向けられる、③ウラン塊――標的を通過した重水素あるいは三重水素のビームがそこへ向かう、がこの加速装置の内容であります。評価によりますと、この方式は優れたエネルギーバランスをそなえ、多量の核燃料をつくりだすことができます。
6  以上のように、研究方式についてのあなたの質問にお答えするとすれば、多くの二者択一的方向の実験を並行して行うのが正しいというべきでしょう。この種の課題を解決する別の、根本的に違った道もありうると考えられます。ですから、それらを探究する必要があると思います。そのためには周到な研究を進め、工学的、技術的な研究を全面的に進めなければなりません。
 池田先生、あなたは、私が核融合エネルギーの応用の面での将来性についてどう考えているかを質問されています。ソ連その他の国で行われてきた研究結果に基づいて、今でもすでにいくつかの核融合エネルギーの応用をあげることができます。
 その一つは、制御された重水素・三重水素反応を行う、いわゆる“きれいな原子炉”です。きれいな原子炉と呼ばれるのは、この炉の中で核中性子がリチウムによって吸収され、同時に熱伝達体として再利用されるからです。このような原子炉ではリチウム帯が三重水素を蓄積する役割を果たし、つづいてそれを電気的なものに切り替えるための熱源になります。しかし、“きれいな原子炉”は遠い将来のことです。
 電力の生産以外に、現在、高ポテンシャルの合成燃料を得るために核反応を利用する可能性と見通しに関連した問題が入念に研究されています。この種の研究は米ソ両国の専門家によって共同で行われていました。核燃料を石炭のガス化や熱化学的あるいは電気化学的に水を分解して水素を得ること、さらには固形窒素を得ること等に利用する方法がありますが、その優れた利点は、水、空気等のプロセス成分を原子炉内で直接過熱できるという点にあります。
 したがって、熱交換器がない場合、プロセス成分を約二百度の温度まで過熱することができるわけで、そうなりますと、核燃料を得るための熱化学的サイクルがいちじるしく簡便化されるでしょう。核燃料は精油工業や石油化学工業において石炭から合成燃料を生産する多目的プロセスに利用できるでしょう。専門家は原子炉を使って製鉄所における電力供給の問題を研究しています。製鉄所や水素を生産する工場で核燃料を再処理利用することができるようになれば、炭化水素を原料として使わなくてもすむわけです。
 学者は、核エネルギーの平和利用こそ、数千年の未来にわたってエネルギー問題を解決する鍵であると考えています。
7  池田 エネルギー問題の解決は、人口問題、食糧問題、環境問題とともに、人類の存続がかかっている重要なテーマの一つであるといえましょう。現在、石油に代わる未来のエネルギー資源として、原子力、太陽熱、風力、潮力、地熱の利用等の研究開発に、各国が大きな努力を払っていますが、私は、そうしたエネルギー開発のための国際的な協力体制が確立されることを願わずにはおれません。なぜならば、世界の国々、民族が密接につながり合った時代にあっては、いかなる国も、他の国の安定なくして自国のみの繁栄を追求することはできないからです。
 エネルギー問題への挑戦も、人類の英知が結集された時、効率的に目的が達せられるでしょうし、またこの協力そのものが世界平和に大きな役割を果たすにちがいありません。すなわち、各国の研究者や研究機関が共通のテーマをめぐって、交流と協力の場をもつことは、たんに問題解決への早道が見いだせるだけでなく、“地球人”としての自覚が共有されるチャンスになりうるであろうと、私は信ずるのです。さらに、軍事利用への歯止めも、そこではかけられるでありましょう。
 そうした観点から「二十一世紀以降のエネルギー」として期待がかけられている核融合の分野は、さまざまの意味でその条件にかなうものではないかと考えられます。すでに、ソ、日、米、EC(ヨーロッパ共同体)共同のINTOR計画として、国際的研究協力体制への歩みも開始されており、各国の今後の交流が期待されるところですが、博士のお考えはいかがでしょうか。
8  ログノフ 今や、エネルギー問題の現実的な解決法たりうるのは、核エネルギーだけだといえます。人類に必要なエネルギー総量のほぼ半分は原子炉から得られるエネルギーによってまかなわれるであろうことが確かであり、学者は核融合反応を、将来性のあるエネルギー源の一つと考えています。
 制御された核融合の研究が始まったのは一九四〇年代の終わりから一九五〇年代の初めにかけてでした。つまり、ウラニウムを核分裂させてエネルギーを受け取る分野で最初の成果が得られた直後のことです。当時、ソ連では制御された核反応の開発は可能だという考えが表明されました。アカデミー会員I・V・クルチャートフ博士の指導のもと、この面での実験的研究が始まりました。研究作業の初期の段階で核融合エネルギーの開発は短時日で克服できることが明らかになりました。
 同時に、学者たちは一連の困難にぶつかりました。まず第一に、高温プラズマ物理学を発展させるためには予想以上に手間がかかるということです。この課題を解決するためには世界中の学者の努力を結集する必要があることがわかりました。これに関連して、一九五六年にソ連国内で、つづいて他の国々で制御された核融合の研究上の秘密が解かれ、それ以来、多くの国の学者による共同研究が行われるようになりました。
9  こうした協力は、たんに問題解決への近道が見いだせるだけでなく、人類のためのエネルギーの平和利用にも寄与することになるというあなたのご意見に完全に同意します。一九五七年、国連に設置されたIAEA(国際原子力機関)の規約はそのような目的の達成をうたっています。IAEAは設立以来三十年の年月の間に原子力平和利用の面で大きな成果を成し遂げました。IAEA加盟諸国が進めている広範な研究プログラムは、原子力発電の発展、情報の交換、環境保全、新エネルギー源の開発等に寄与しています。
 チェルノブイリ原子力発電所の事故が示したように、この事故の処理において多くの国の努力を一つにまとめる中核となって活動したのは、他でもないIAEAでしたし、事故の処理と関連して、ゴルバチョフ党中央委書記長がソビエトテレビで放送し(一九八六年五月十四日)、核エネルギー開発での安全性を高める国際システムを提唱したことも広く知られているところです。
 この提唱は、一九八六年九月二十四日から二十六日にかけてウィーンで開かれたIAEA総会特別会議で検討されたソビエト案の基礎づけをしました。討議の結果、総会特別会議は、「核による事故の緊急通報」と「核による事故あるいは放射能事故に際しての援助」に関する二つの協定を採択しました。
10  現在の情勢にあって軍拡競争の停止以上に差し迫った課題はありません。IAEAの枠内でもこの方面で多くのことをしております。
 IAEAの任務の一つに分裂性物質、設備や技術手段など、同機関が保有する資料を軍事目的の推進に用いることを許さないという保障があります。この保障を果たすことこそ、核エネルギー論が活発化している今日、第一義的な課題にならなければなりません。IAEAの枠内でも個々の国の間の二国間協定や国家集団間の協定が存在しています。なかんずく、ソ連原子力国家委員会とフランス原子力委員会との間に核物理学分野で共同研究を実施するという協定が結ばれ、核融合やプラズマ物理学を含むさまざまな協力が進められています。同じような協定がアメリカ、日本その他の国との間でも結ばれました。経済相互援助会議(コメコン)の枠内でもソ連と社会主義諸国との間で原子力の平和利用に関する共同研究が進められています。
 高温プラズマ物理学の当面の課題や技術・工学上の問題を審議する各種国際会議、シンポジウムを開催することは、核融合分野での国際協力を実り多いものにするのに寄与するでしょう。

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