Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

宇宙の構造・進化とその始源  

「第三の虹の橋」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

前後
1  池田 天空に輝く星は、太古の昔より、人間に多くのことを語りかけてきました。星との語らいは、神秘の世界との出合いであり、人間精神を崇高なるもの、永遠なるものへと導く“光の世界”そのものであったといってよいでしょう。
 この宇宙の長遠の時間と、広大な空間の広がりに比べ、人間の生はあまりにも短く、また、その存在は小さなものであるかもしれません。しかし、人間の心が、その宇宙に向かって開かれ、対話する時、わが胸中は永遠と無限の世界をもつつみこむことができます。そこに、人間の人間たる証があると、私には思えてなりません。
 そして、この宇宙と語り合う人間という小宇宙が存在することそれ自体が、謎であり神秘である、という以外にありません。貴国の著名な物理学者であるランダウ博士も「宇宙は、それ自体が秩序をもった世界をつくり出した」と述べておりますが、まさに、コスモス(宇宙)とは秩序の世界であり、その世界の最も調和ある結実として汝自身の存在があるとはいえないでしょうか。
 仏法では、この宇宙と我をつらぬく根源の法則を妙法と説き、宇宙の森羅万象は、この妙法の発現と潜在化の諸相であり、それはまた成住壊空、すなわち生成消滅を繰り返すものであるととらえています。さらに、仏法の究極の教えを明かした法華経に説かれている比喩には、長遠の時の流れと広大な宇宙のスケールを示唆する表現が各所に散見できます。
2  こうしたことから私は、現代科学が描き出した宇宙観が、仏法の眼にとらえられた世界観に重なり合うものであるとの感を深くしております。もちろん科学は、その方法論において帰納的に推論するものであり、一方、宗教は演繹的に直観するものですが、ともに、人間の認識の力の到達すべき究極は一致したところにあると確信しております。
 われわれの宇宙が相対論的に閉じているのか開いているのか、また、この宇宙の始源と終末はいかなるものか、そして、われわれの宇宙の誕生する前には、どのような宇宙が存在したのか、われわれの宇宙以外に他の宇宙が存在するのか――。宇宙の構造と起源についての、そうした本源的な疑問に対し、現代科学が提示する宇宙観には、非常に興味深いものをおぼえます。
 宇宙の彼方から、つまり、はるかなる過去から、この地上に到達している、さまざまの光と電波のメッセージは、この疑問に答えるヒントを、われわれに与えてくれます。そして、膨張宇宙論、振動宇宙論などのモデルが立てられていますが、真実の宇宙の像は、いかなるものであるのか、また、その背後につらぬかれた法則を、科学の眼は、ついに確定しうるのでしょうか。
3  ログノフ この問題はかなり複雑ですが、ソ連の学者の最近の業績に基づいて簡単にお答えしたいと思います。
 宇宙についての科学的理解はここ五、六十年の間に本質的に拡大しました。この期間に、次に述べるような好適なファクター(要素)の結合という成果が見られました。
 すなわち、一つは、観測手段の抜本的な進歩で、それは大型光学望遠鏡の開発、電波からレントゲン線、γ線までの実用電磁放射線、電磁波の波長域の拡大、地球周辺宇宙空間に科学機器を運搬し利用することが可能になった事実等に現れています。それらのすべてによっておびただしい実証的データが蓄えられました。
 第二は、基礎物理論がタイムリーに出現したことです。宇宙科学は、相対性原理から素粒子物理学の最新の成果にいたるまで、現代理論物理学の成果をすべて積極的に活用しています。
 第三は、ミクロ世界にかかわる深遠な理論構成と、マクロ世界における具体的かつ実証的研究の対象および現象との間の不可分の関係です。それは過去の科学発展段階にはなかったものです。たとえば、引力的なものも含む一切の力学的相関性の統一記述をめざす物理学理論の構成においては、宇宙の初期発展段階に存在した極致的物理現象の研究が必要不可欠です。このような宇宙空間という自然の研究室においてのみ、地上の条件では到達不能の理論的結論を検証することができるのです。
 第四は、宇宙の構造と発展の問題に対する社会的関心の高まりです。それはこれら諸問題の世界観的知識によって条件づけられ、この学問領域における知識の急速な増大に支えられています。
 宇宙の組成の現代的理解についていえば、それは大ざっぱにいって以下のようになると思います。
4  私たちは銀河系という一個の星雲に属する太陽系に住んでいます。銀河系の星の数はおよそ十の十一乗といわれます。私たちの銀河系と並んで、宇宙には別の銀河系が無数に存在します。数十億光年という、比較的に研究しつくされた宇宙空間にさえ数十億の銀河系が存在するといわれています。銀河系の配置は一様ではなく、集団や集積の形で統合しており、きわめて複雑な空間構造を形成しています。
 しかし、銀河に集まった質量の非均等性の度合いは銀河全体の体積が増えるにつれて減少します。可視空間における現在の平均密度は一立方センチメートルの体積の中に約十のマイナス三十一乗グラムでしょう。銀河系の星に入る物質のほかに、観測可能な世界には中性子ガスやイオン・ガス、各種の輻射線――そのうち重要なのはマイクロ波輻射――、宇宙線そして弱い磁場などが存在します。それらの平均密度への算入はごくわずかです。
 このほか、未発見もしくは今のところ不明の物質が存在する可能性があります。もっとも一般的な化学元素は水素とヘリウムです。全質量中、水素が占める割合は七五パ-セント、ヘリウムは約二五パーセントです。その他の元素の含有率はいちじるしく低いのです。重い元素は星体の核反応の過程で形成されます。観測の対象は物質から成り立っており、多少とも目立った反物質の量が存在するという指摘はまったくありません。
5  銀河系の重要な特性は非静止性です。遠い銀河系がスペクトル(波長の順に配列した輻射線)のなかで絶えず赤方に偏移する現象こそ、非静止性の証左といえましょう。銀河系星雲群の集積や、集積されない個々の銀河はそれらの間の距離に比例した速度で遠ざかっています。そこに、宇宙の過去と未来という問題が当然起こります。
 観測可能な銀河が互いに遠隔化していく事実によって、星雲間の距離が過去には小さく、それよりさらに以前には銀河系星雲は現在のような形では存在しなかったと結論づけることができます。というのは、銀河や星体の物質はすべて非常に密度が濃く、高熱だったからです。それは今から百億年ないし二百億年昔のことです。
 宇宙生成の銀河前段階が存在したという確証は、いわゆる宇宙・極超短波背景輻射です。この輻射は空間に均等に充満し、地上でも、宇宙でも記録され、スペクトルの形状、温度などその物理学的特性の点で個々の星体や他の天体といちじるしく違っています。この輻射線の、現在観測可能な温度(絶対温度約三度)は、理論的に予見された数値に近いところにあります。
 輻射線温度はかつて、今よりはるかに高かったのですが、その後次第に低下しました。温度が四千度だった時分、輻射線は四散せず、また物質原子に吸収されることもなく、自由に広がりました。残存輻射線は今では計測器にとらえられ、現在の可視世界部分の大きさが一千分の一以下だった太古の銀河前期についての情報をもたらしてくれます。
 天球のさまざまな方角から地球に届けられる残存輻射線は精度百分の一パーセントの均等温度をもっています。このことは、銀河前物質の物理的条件がさまざまな場所で高い精度の均等性をもっていたことを意味します。つまり、銀河前物質は均等に配分されていたということです。それが原因で銀河とその集積という姿での物質の現在の非均質性は、かつて存在した密度のごく小さな初期摂動の結果と考えられています。初期摂動についてのさまざまな仮説が現在、綿密に分析され、観測データと詳しく対比されています。
6  宇宙進化の最初期の段階についての知識はあまり正確なものではありませんが、それはやむを得ないでしょう。しかし、私たちが確実に知っていることを顕微鏡物理学や相対論的引力原理の一定の法則によって補足的に過去に書き入れることによって物理的諸条件が引き出されます。それらの条件についての知識は観測によってチェックすることができるでしょう。温度が十億度に達し、物質と放射の平均密度が一立方センチメートルの体積中十の二乗グラムだった時代についての観測報告書が今日存在しています。
 その時代に核融合反応が起こり、その結果、水素、ヘリウム、重水素といった軽い元素の核が形成されたのです。それらの元素が宇宙空間に拡散している事実は、理論モデルの予測と合致しています。
 さらに高い密度と温度の場合、観測可能な宇宙が物質をもっているのに、反物質をもたないのはなぜかを探求する必要があるでしょう。宇宙科学と理論物理学の最新学説との深いかかわりがそこから始まるわけです。
 観測される宇宙の膨張は縮小と交代するのか、また、この宇宙は無限につづくのかという問いに対する答えは、宇宙空間における全物質の最大密度いかんにかかっています。現在はまだ見えない物質の平均密度は、引力が最終的に膨張と縮小の交代をもたらすのに十分な大きさをもっているとも考えられます。
7  私どもには、星や銀河といった多くの天体の始源はかなり明確にわかっていますが、宇宙そのものの始源については、解明の道をやっと一歩踏みだしたばかりといえます。
 現在の理論モデルから引き出される諸結論によって過去の事実を推定しても、そこに引き出される密度や温度などの特性の形式的な値は無限です。しかし現在はまだ完成されていない未来の基礎理論では、エネルギー論的、空間的・時間的等の物理学的実在の一切の特性をつくりあげた物理的過程が明らかにされると考えられます。
 その意味で、この理論は観測される宇宙の始源についての知識を、さらに、銀河と類似した、あるいは、いちじるしく異なる他の「宇宙」の限られたものの始源についての知識を私たちに与えてくれるかもしれません。
 私たちの宇宙学では、「私たち」の宇宙は当然開かれたものになっています。したがって、宇宙全体には「隠された質量」が当然あるわけで、それは、今日観察される質量の約四十倍に達すると思われます。
 「変動」、そして「膨張」過程を始める摂動が発生する物質形態は従来「真空」、すなわち「空虚」と呼ばれてきました。しかし、現代の「物理的真空」は空っぽではなく、本質的には――ただ現在においてはの話ですが――私たちの科学の領域に含められているもののうち最も基礎的な、物質存在の形態なのです。ただ、今のところはまだその解明は十分ではありません。

1
1