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日蓮大聖人・池田大作

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時間と空間  

「第三の虹の橋」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

前後
2  さらに、一般相対性理論では、物質と時間・空間の関係が取り上げられ、物質の存在のしかたによって時間・空間の性質が規定されることが明らかにされました。こうして、相対性理論によって、時間・空間論についての新しい視野が広がり、旧来の「時空」論に重大なインパクト(衝撃)が与えられたのです。
 この問題を仏法について見ますと、仏法では、無限の時間と空間を説きますが、経論に述べられているところから察知するに、ニュートン力学のように事物と無関係に存在する絶対的時間と絶対的空間ではなく、宇宙万物と一体不二となった「時空」論に立っていることが明らかです。つまり、事物と「時空」は融合し、因果の理法(縁起の法)にのっとって流転していくというとらえ方です。
 ログノフ総長は、時間と空間をどのようにとらえておられますか。
 ログノフ 空間および時間とは何か、それらの本性とはいかなるものかという問いに対する答えは、人間のさまざまな活動領域にとってきわめて重要な意義をもっています。空間と時間についての理解は人間の自然についての知識が高まるにつれて、またそのことと互いに関連し合いながら広まっていきました。こうした発展の過程においてとりわけ大きな役割を果たしたのが物理学だったのです。
 物理学は他の科学分野、なかんずく唯物哲学と共同して時空の本性を深く解明し、その結果として空間と時間の定義が根本から再検討され、物理学知識の向上の本質的に新しい段階において明確化されたのです。
 そうした特徴的な段階の一つは、ニュートン力学、すなわち物体に関する学問としての力学の急速な発達が始まった時期と結びついています。十七世紀末の力学は実験科学でした。その実験科学によって、運動する物体の運動学的・力学的特徴づけと物体に加わる力との間の経験的相関性が明確化されたわけです。
3  ニュートンは多くの実験データを総括したあと一六八七年に三つの有名な力学法則をつくりあげました。同時にニュートンは空間と時間の概念の研究に着手しました。彼は時間と空間を絶対的なものと相対的なものに分けました。ニュートンによると、絶対的なものとは何ものからも独立し、何ものにも無関係に存在するものです。絶対時間もしくは継続時間は等速に進みます。絶対空間は、つねに等質であり、不動です。絶対時間と絶対空間は人間の五感でとらえることができません。
 これに対し相対時間と相対空間は五感でとらえることができ、変化を受けます。相対時間は私たちの日常生活で用いられる時間の長さの尺度で、年月日時等のことです。相対空間は絶対空間のうちの限られた部分で、ある物体に対する人間の位置によって五感にとらえられる尺度です。通常の生活ではそれは不動の空間として受け止められています。
4  ここで指摘しておかなければならないのは、三次元空間のユークリッド幾何学概念はそこで用いられたベクトル組成と二点間の長さの決定の法則の結果としてニュートン力学に明確に組み入れられているということです。事実、力学の主要原理を実験によって確かめ、両者を対比した結果、この仮定の正しさが確認されました。
 さらに分析結果から明らかなように、ニュートンが自分の力学を構築するさいに用いた空間と時間の概念を前もって知らなくても、いわゆるニュートンの方程式の形を変えない変換群を研究することによってその本性を確かめることができます。こうした分析は空間が等質のものであることを裏書きしています。
 空間がもつこの本性の物理学的意味は、二つの方法によって解明できます。
 一つは、力学的現象は、任意に選んだ座標の始点にかかわりなく進行するということ、二つは、そのような力学現象を他の空間点に移し替えても、同様の現象が起こるということです。
 ニュートン力学における時間の等質性についても、以上の方法によって確認することができます。
5  次にニュートン力学における空間は等方性であります。つまりそこでは物理的に分けられた方向が欠如しているのです。しかし、力学式のこのような解析は前に述べた空間と時間の本性の定義以外のプラスアルファを与えます。このような解析によってニュートン力学ではつねに孤立していた第四変換群、すなわち一つの慣性系計算から他の慣性系計算への移行を記録するガリレイ変換もあることがわかりました。
 このような変換群の存在はすでにガリレオ・ガリレイが確立した相対性原理を数理的にあらわしたものであり、ニュートン力学のいかなる力学実験によっても、ある人間がはたして静止の状態にあるのか、それとも等速直線運動の状態にあるのか判定し得ないことを意味します。この原理の本質をガリレイは次のように説明しています。
6  「まずあなたは船に乗って、他の人から離れて友人のだれかと甲板の下にある広い船室に移り、ハエとかチョウといった有翅小虫をそこで飼うのです。この船室には水の入った大きな容器があり、その中で小さな魚が泳いでいます。次に桶を天井からつるし、その桶から水が一滴一滴、下に置いた細首のついた別の容器に落ちるようにします。さて、船が停止している間、室内の四方をくまなく観察しなさい。するとあなたが目にするのは、魚は無頓着にあらゆる方向に泳ぎまわり、落下する水滴はすべて下に置いた容器の中に落下する光景です。そして何か品物を投げるとすると、投げる距離が同じであれば、どこへ投げようともそれに要する力はすべて同じです。今度は両脚を一緒に蹴って飛び上がります。すると、どの方向に跳んでもその距離は同じになります。こうした動作のすべてを熱心に観察するのです。船が停止しているかぎり、すべてがまさにそのとおりの動きを見せることについてあなたはなんら疑いをもたないでしょう。次にどんな速度でもいいから、船を走らせてみなさい。すると、速度が同じで、どの方向にも揺れない場合、あなたは上述したすべての現象について少しの変化も見いだせないでしょう。どの現象をとってみても、船が動いているのか、それとも動かずにいるのかあなたにはわからないのです」
7  物理学者は長い間、ニュートンの時間・空間論を支持し、何の議論もせずに、物理的空間の本性は、当時知られていた唯一のユークリッド幾何学の規定によるユークリッド空間の本性であると見なしていたのです。
 一八二六年、ロシアの優れた学者ロバチェフスキーによる非ユークリッド幾何学――いわゆる永久否定曲線の幾何学――の発見として初めて物理的空間の本性についての新たな問題が提起されました。ロバチェフスキーは空間の本性は物質とその運動の本性によって規定されるとし、「自然においてある力は一つの幾何学、他の力は別の特別の幾何学に従う」と考えました。
 非ユークリッド幾何学が発見されるとすぐさま、ロバチェフスキーの幾何学は力学に矛盾しないかという問題が起きました。つまり、非ユークリッド空間において力学を体系づけることが不可能だということが立証できたとすると、そのこと自体によって現実に非ユークリッド空間が可能だとする考えが否定されてしまうのではないかという疑問です。
8  しかし、この方面で得られた結果は、非ユークリッド空間によって力学を体系づけることができるということを立証しました。しかし、当時出現した非ユークリッド幾何学は、アインシュタインの相対性理論が現れるまで物理学者によって真剣に論議されず放置されました。
 物理学者にとって空間はユークリッド空間、つまり時間に関係のないものとしてとどまりました。したがって上に述べた二つの変換群――ガリレイの変換群と、空間の均質性と等方性および時間の均質性を反映する変換群――はそれぞれ独立して共存しました。
 さて、思いがけない発見が電気力学によって得られました。マクスウェルやファラデーの電気力学が生まれたのち、ニュートン力学を源とする空間と時間の本性は電気によって結論づけられる本性と一致しないことが明らかになりました。精密な研究の末、電気力学が時空の本性を正しく反映しており、近似的な性格のニュートン力学は新しい相対力学に代わらなければならないことが結論づけられました。こうして一九〇四年に例のローレンツ変換の発見となり、相対性理論が構築されたわけです。
9  それからすこし経った一九〇八年に、マクスウェルとファラデーの電気力学が相対性原理と結合して擬ユークリッド時空幾何学が発見されたことをドイツの学者ミンコフスキーが研究論文において立証しました。空間と時間を総合して時空統一体をつくりだし、この時空幾何学が擬ユークリッド幾何学であることを明確に立証したのは、他ならぬミンコフスキーその人だったのです。
 以上の事柄から結論づけられるのは、特殊相対性理論の要点は、あらゆる物理的プロセスは時空において行われ、その幾何学は擬ユークリッドであるということです。強電磁と弱電磁の相互作用についてのその後の研究は、これまで述べてきた概念の正しさを明確に裏づけました。時空についての新しい概念は各種物理学分野の発展に大きな影響を与えました。なかんずく、特殊相対性理論から生まれる方程式や相対比を用いずに核内エネルギーを開発したり、加速技術を進歩させる分野で成果を上げることは考えられなかったでしょう。
 物理学的時空についての擬ユークリッド幾何学の発見によって、すでに現在、たとえば相対性理論を新たな視野から考えることができるようになりました。
10  あらゆる物理現象は時空において生起し、時空幾何学はすなわち擬ユークリッドであるとの見解が、慣性系の計算だけに用いられる通常の相対性理論よりもはるかに優れていることが私たち物理学者の研究によって明らかになりました。この見解によって、慣性系計算のみならず、非慣性系計算でも正しさを示す普遍化された相対性原理の構築が可能になります。
 つまり、慣性、非慣性いずれの物理系を選ぼうとも、一切の物理現象が初めの系におけるのと同じように生起するのであり、そこで計測される数値は同じなのです。したがって、私たちとしてはこの無限総体から任意の系を見つけだそうとするいかなる実験的可能性ももっていませんし、またもち得ません。
 このように、現代科学の視点からすると、物質の存在形態としての空間と時間は不可分の一体すなわち四次元時空であり、この時空一体の幾何学は擬ユークリッドであります。もちろん、物質の本性についての私たちの知識がさらに深まっていけば、時空の組成についての私たちの理解もよりいっそう深まるでしょう。

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