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日蓮大聖人・池田大作

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福祉制度を活かす道  

「第三の虹の橋」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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3  ログノフ ソ連の社会保障対策は年金年齢(男性――六十歳以上、女性―五十五歳以上)の人々にとって最大限の好条件をつくりだすことに向けられています。そうすることによって彼らは国の社会公共生活に積極的に参加することができるようになっています。ここで二つの問題が生じます。一つは年金生活者の労働を国民経済に活用するための条件を法制化することです。第二はこうした問題に対する国民の関心を高めることです。
 私が理解するかぎり、社会保障制度の活性化に役立ちうるのは年金生活者の仕事を法的に規定することです。その内容は、彼らは、高度の熟練をたもつ専門家だけでなく、経験を積んだ自覚的働き手なので、若者の指導者としての仕事に就かせるというものです。言い換えれば、年長者の経験を若年者に直接伝えていくことなのです。
 池田 今日、技術があまりにも急速に進歩し、しかも電子工学の応用によってオートメーション化し、熟練技術を必要としなくなる分野が増えていることは事実です。しかし、それにもかかわらず、人間の熟練した技術なくしては得られないものは、どこまでも残っていくと私は信じます。
 そうした面では、年長の熟練者が活躍できる領域はまだまだあるし、また、それをなくすようなことがあってはならないでしょう。
 ログノフ ソ連ではすでに多年にわたってベテラン(永年勤続熟練労働者と事務員)生産経験者評議会が機能しています。この評議会は労働や教育の問題、とりわけ、青年労働教育運動に関連した広範囲の問題に取り組むことを使命としています。この青年指導運動は生産の領域だけでなく、若い勤労者の私的生活に対しても少なからず、よい結果をもたらしています。
 こうした仕事は創意ある取り組みを要求します。さもないと、年長者と若年者とのこの種の共同はともすると、両者双方にとって形式的なものになってしまうおそれがあるからです。さまざまな年代の人々の間にある種の心理的協調性が必要です。周知のように、それを達成することは容易でなく、つねに成功するとはかぎりません。私の考えでは、ここでは生活体験のほかに、年長者は青年の問題に対して敏感で思いやりをもち、理解することが最小限の条件になると思います。それは好意や親切心に満ちあふれた態度によってのみ可能となるのです。
4  池田 まことにおっしゃるとおりです。ところで、福祉制度の問題に戻りますが、これを運用するうえで、人間的な温かい思いやりが必要であるとともに、また、一方、福祉制度の発達によって、働かなくても生きていけるということから、労働意欲の減退を招いていることも無視するわけにはいきません。福祉制度の完備している先進諸国には、失業保険に頼って、あえて就職しようとしない青年もかなりの数にのぼると聞きます。
 ログノフ 私が思うには、過度の思いやりは人間の人格を損ない、生きていくうえでの活力を弱め、人間を優柔不断にし、自信をなくさせ、臆病者にしてしまいます。したがって、大事なのは、あらゆる年齢層の協力、互助の雰囲気をつくりだすことだと思われます。これこそ、人類のいく世紀にもわたる夢である心からの調和への道だと思います。この調和への道は長いいばらの道です。だからこそ、エベレストの山頂をめざす登山家のように、人間の幸福という険しい山へはゆっくりと慎重に登らなければならないのです。
 ここしばらくは社会保障制度の改善についての実践的な問題を解決していかなければならないでしょう。究極的に世界は生産問題についても、また社会がつくりだした富の配分の問題についても、ともに皆が共同して解決すべきところに行き着くと思います。
5  池田 結局、一人一人の人生に臨む姿勢、人生観の確立ということが、最も根本的な問題になりますね。
 ログノフ すでに今日、社会保障制度を活性化するための差し迫った課題の一つは、立派な業績を収めて年金生活に入る人々に特典を与えるさい、個々の人間について個別的な配慮をすることです。私は意識的に“立派な業績を収めて”という言葉を使いました。ソ連共産党第二十七回大会の決定に従ってソ連では労働不能の人々に対するより良い保障を社会によって与えられるような条件をつくりだす方針が採択されました。年金保障制度の改善に関する特別の法令があります。これは完全に正しいことです。すなわち、国家は、経済的な社会福利を強化するため寄与し、時にはしばしば生涯最後の日まで力を尽くした年長の労働者に対して、より大きな責任を負わなければなりません。
 もう一つ指摘したいことがあります。それは、社会保障制度を改善するうえで重要な意義をもつのが、身体障害者および慢性疾病患者に対する医療援助組織を絶えず改善していくことです。発達した社会主義社会は社会主義的ヒューマニズムの原則を堅持しており、こうした人々が自分の責任ではないのに苦しい試練を宿命づけられていることに対して冷淡な態度で見すごすことはできないのです。
 彼らの肉体的・精神的な苦痛をやわらげ、できれば、彼らが積極的かつ快活に社会的活動に参加する可能性を与えること――これこそ、最も人間的な使命の一つです。こうした問題は、人間の全面的需要のよりいっそう完全な充足を基本原則とする社会にとってのみ解決が可能でしょう。
 私の考えでは“弱者”への時として屈辱的で堕落させるような思いやりではなく、社会の各員の物質的・精神的生存を社会的に保障しうる制度の確立、人々の運命に対する責任感と人間同士の助け合いの精神の育成――これこそ社会保障制度を活性化し、より効果的なものにする基本的な条件だと思います。

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