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日蓮大聖人・池田大作

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まえがき  

「第三の虹の橋」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

前後
2  現在の世界を戦争の脅威にさらしているのは、決してアメリカとソビエトという二つの超大国に限りませんが、全人類の滅亡を招きかねない巨大な軍事力をもって、事ごとに相対峙している米ソ二超大国が、人類の脅威の中心になっていることは、何人も否定できないところです。しかし、それはアメリカが悪いのでもなければ、ソビエトが悪いのでもありません。また、この二国が悪くて他の国は善人であるということでもありません。私は、ここ十数年来、機会あるごとに、アメリカ、ソビエト、中国をはじめ、各国の指導者の方々と対話を重ね、世界の不戦・恒久平和樹立への道を探りつづけてまいりました。いずれの国の指導者も民衆も、みんな戦争を恐れ、平和を希求している――これは、まぎれもない事実です。
 平和を求める民衆の願望とは裏腹に、どうして戦争の危機はいっこうに解消しないのか。むしろますます脅威が強まっているのは、なぜなのか。それは、所詮、人々の心に根深い不信感がわだかまっているからに他なりません。この不信のゆえに、平和とわが身の安全を願う心が強ければ強いほど、完璧な防衛システムと、報復能力の強化を追求するという悪循環を引き起こしているのです。
3  そこで、では、その要になっている不信感を取り除くには、どうしたらよいのでしょう。少なくとも、現時点においては、対話と交流を深め広げて、お互いが理解し合うことがなによりも大切であると考えます。そして、さまざまな複雑な状況はあるにせよ、双方が平和を求めていることを理解し合い、お互いが、相手方に与えている脅威を外交手段によって取り除く方向へと、まず努力を払うべきでありましょう。
 それは、ちょうど、互いに相手が自分を殺そうとしているのではないかという警戒心から拳銃をかまえ合っていた男たちが、相手に殺意がないことを確認して、銃を収めるようなものです。
 このように、平和を求めている点において同じであることを確かめ合うのと同時に、もう一つ大切なことは、互いに相違点も理解し合うことです。
4  日本人や中国人は、あいさつをするのに頭を下げます。欧米人は腕を差し出して握手をします。今では、日本人や中国人も、欧米人と会った時は、それに合わせて握手をしますが、もし、まったくそうした相違を知らなかったら、欧米人は頭を下げる日本人を見て、自分を嫌って視線を避けていると勘違いしたかもしれません。日本人は腕を差し出してくる欧米人を見て、襲いかかってくるのではないかと恐れたかもしれません。
 やり方は違っても、親愛の情をあらわしているのだと理解し合っているからこそ、喧嘩になることはないのです。このような相違点と共通性の相互理解――そして、その理解を基盤にして、相手のやり方に合わせていこうとする譲り合いの精神――さまざまに歴史的背景が異なり、多様な文化を生みだしてきた人間が、平和に付き合っていくためには、これほど大切なものはないとさえ思われます。
5  この意味でも、日ソ両国民は、互いに理解し合わなければならないことが、まだまだたくさんあります。資本主義日本と、共産主義の盟主ソビエトとでは、物の考え方にさまざまな違いがあります。それは、ログノフ総長と私とのこの対話の各所に、読者の皆さんは読み取っていただけると思います。また、マルクス・レーニン主義を基本とされているログノフ総長と、仏教者である私とでは、宗教観、生命観など、最も根本的なところで相違があります。
 しかし、近代社会ではどこでも、思想・信条の自由を認めており、互いに自由を尊重し合っていくかぎり、日常生活にも国家社会の運用にも、なんらの支障をきたさないでいるように、こうした相違は、まったく私たちの対話を妨げるものではありませんし、両者の友情にヒビを入れるものでもありません。むしろ違いを理解し合うことによって、いっそう親密な話し合いを展開することができたと信じています。このことは、本書を読まれる日ソ両国の読者の皆さんも同じであろうと確信いたします。
 日ソ両国の交流は、十七世紀末にさかのぼり、十九世紀後半より二十世紀初頭、ロシアの文化から日本は多くを学んできました。これを両国間の第一の橋とも位置づけられましょう。
 その後、不幸な歴史もあり、第二次大戦後、東西冷戦の厳しい世界情勢のなか、友好の道を模索しつづけた――これが第二の橋ともいえます。
6  この対談が、国境や体制を超え、世界の平和を願う両国民衆の心と心を結ぶ、二十一世紀への懸け橋となればとの希望を込め、両者は題名を「第三の虹の橋」とすることで合意しました。
 この対話がつづいた六年の間に、ソビエトでは、病死によっていく人かの指導者の交代がありました。しかし、私たちの対話が変わることなくつづけられたのは、ソビエト指導層の一貫した姿勢によるものであると思います。とくにM・S・ゴルバチョフ書記長の平和・人権路線が、世界の平和のために、大きく結実していくことを願ってやみません。
   創価学会インタナショナル会長
               池田大作

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