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逃避の反射作用  

「闇は暁を求めて」ルネ・ユイグ(池田大作全集第5巻)

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1  逃避の反射作用
 ユイグ 人間のそれに対する対応はすぐあらわれます。もし、現代の象徴的な現象を一つ、心理学者として決めなければならないとしたら、私は、それを逃避の反射作用と名づけるでしょう。現代の人間は、逃げることしか考えない人間になっています。最初、それはまったく正常で、憂慮するにたりない事象としてあらわれます。たとえば、セカンド・ハウスの増加がそれです。
 しかし、この欲求は正常でありません。かつては、特別資産家ででもないかぎり、二つも住まいをもとうという習慣はなかったことです。今日では、最も質素な人びとが倹約をし、あるいは、しばしば返済のために生活が圧迫されるほどの貸付金をたのんでまでも郊外に仮住まいを手に入れようとするのがみられます。フランスでは、一九三九年から一九七五年にいたる約四十年間に、こうしたセカンド・ハウスの数は三十万戸から百六十万戸へと五倍以上になりました。こうしたセカンド・ハウスは、百万以上の家庭を、自然の再発見のために吸い寄せているのです。
 大衆化したというものの、こうしたぜいたくに手の届かない人びとは、自分の働いている都会から離れた田舎や、少なくとも郊外に住居を建てて、長い、辛い通勤に耐えているのです。
 逃避の現象の中には、例年行われる、もう一つのかたちがあります。これは旅行趣味の発展に起因するほんとうの移動です。
2  さて、この逃避について注目しなければならないのは、それがいかなる方角へ向かってなされるか、です。人びとはバカンスになると、技術文明の発達によって、より侵されていない地方へと出かけます。まず人気の的になったのがスペインであり、現在はトルコであり、さらにカリブ海です。これらは、こうした人びとの殺到によって経済的発展を勝ち取っていますが、そのことがやがてしだいに旅行者たちを失望させることになるでしょう。
 人びとはまた、過去の遺物を求めて現代世界から逃避します。とくにフランスでは、若い人たちは考古学的発掘のため無報酬の作業班を組むこともありますが、これは過ぎ去った時代に対する並々ならぬ関心が新しい風潮として高まっている証拠です。人びとは、自然へ、非工業的なものへと向かっていくのです。
 ヒッピー運動もまた社会参加ではなく、一つの逃避現象です。そこにはまず、各人の所得の増大が支出の増大を促進するように仕組まれている消費社会、この現実生活からの組織的な拒絶がふくまれています。ヒッピーはこのような仕組みを拒んでいるのです。彼らは、しばしば原始人にみられるような服装さえして、自らを社会から区別します。この都会的慣習との攻撃的な断絶が強調している撤退と別離は、規則と規律への挑発的な拒絶でもあります。
3  しかし、この現象はまた、無視できない知的影響力をもっています。ヒッピー運動は、それがただのものまねにおちいらないときは、インドの哲学、禁欲と空の哲学に関心をもっています。この西洋思想の拒否と、時間・空間ともに遠い源をもっている東洋思想の探究、実務的で利害一辺倒の行動を否定し、存在を〈空〉とみるこの思想への傾倒――これもまた、一つの逃避の現象です。だが、この逃避も極端で過激になると、人工的な麻薬による夢に頼るようになります。この増大する荒廃は、現代の世界の放棄と忘却という破滅的な反動の兆候以外のなにものでもありません。

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