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日蓮大聖人・池田大作

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核の脅威を絶滅する方法は?  

「人間革命と人間の条件」アンドレ・マルロー(池田大作全集第4巻)

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1  核の脅威を絶滅する方法は?
 池田 ともかく戦争は根絶しなければならない。これは原爆による悲惨な体験をもっている私ども日本人はもちろん、第二次世界大戦の勝者の側の国民も等しく痛感してやまない根本感情であり、意志であると思います。その反面、私たちのような戦中派とは違って、戦争体験をまったく知らない世代、平和から見はなされた人間の“自我の危機”というものを味わったことのない戦後派世代が、わが国でも総人口の三分の一を占めるにいたっています。
 あなたは、スペイン内乱と第二次大戦と、二度にわたって貴重な戦争体験をお持ちとうけたまわっておりますけれども、こうした戦後派世代のためにも、そして私ども戦中派世代のためにも、その貴重な体験的教訓をうかがいたいと思います。
 マルロー 私が申しあげたいのは、日本の若者たちにたいしてというよりは、会長ご自身にたいしてです。もし、ご意見があれば、あとでうかがいたいと思います。
 原爆戦争の危機は、まったく空想の危機と、まず申さねばなりません。米ソ間に、ご存じのように首脳間“直通電話ホットライン”が現実にできていますが、そもそもこれができたきっかけは、トルーマンとスターリンの時代に両国物理学者が調査した結果、当時、米ソがそれぞれ持っていた十個以上の強力な原爆のうち、十個以上を爆発させたら、核連鎖反応で地球がほとんど破壊されてしまうのではないか、ということがわかったからなのです。したがって、いわゆる《原爆戦争》は、絶対に起こりえないということなのです。この点について、もしなにかご質問があれば、喜んでお答えいたします。
 池田 いまのお話に含まれますけれども、いちおう、念のためにうかがいたいと思います。
 先ほどの、次の世界大戦が起こるとすれば、太平洋圏内という話にも関連しますが、現在、世界をおおう戦争の危機をなくすために、いますぐ実行に移さなければならないことはなにか? また、戦争の脅威をなくすために恒久的になさねばならないことはなにか? それが重要な関心事です。
 われわれ日本人は、フランスといえば文化の国というイメージが反射的に浮かんできます。それほど、フランスは文化を重んじ、文化によって世界をリードしてきた国として、尊敬と憧れをいだいているわけです。
 しかし、そうした日本人のフランスにたいする敬意にたいして、少なからず傷をつけているのが、核実験のたび重なる強行です。日本人は核爆発によって、長崎と広島の市民、数十万人が殺された。また、アメリカの核実験による放射能を含んだ死の灰で、犠牲者を出した暗い想い出をもっている。
 これは政治以前の問題であり、人間の生存への脅威です。生存の権利を最優先するという立場から、私はフランスの知性と良心を代表するマルロー先生に、この席で、フランスが実験中止に向かって努力されるべきではないかということを申しあげておきたい。
 マルロー それについてはご返事を避けたいと思います。
 池田 お立場があると思います。
2  マルロー 唯一の原爆戦を避ける方法、核競争を避ける方法は、やはり監視であろうと思います。
 池田 だれが監視しますか?
 マルロー 原爆実験の停止はなんの重要性もありません。なぜならソ連は地球を破壊するにじゅうぶんな原爆の十一倍もの原爆を持っているからです。ですから、原爆実験の停止をするだけではなく、ストックをなくさなければならない道理ではありませんか。しかし、ソ連は、けっしてそうはしますまい。いっぽう、米国も、けっして自分たちのストックを取りさりはしないでしょう。なぜならソ連がストックを撤去するということは確かでないのですから。
 池田 なるほど。それでは、だれがストックを中止させる方法を講ずるのか? また、どのように?
 マルロー 私が、以前、故ケネディ大統領とこういった問題について話し合ったときにもはっきりわかったことですけれども、アメリカは、絶対に自国の核戦略をなくしてしまおうなどと思ってはいません。なぜなら、アメリカはソ連の同様な力にたいして核を保有しているのであって、これは先方も同じことなのです。したがって、だれも核ストックをなくそうなどと考えていないのが実態です。
 池田 そういう危険な状態では、なにかの偶発事で、突然に核戦争が起こる可能性がないとは断言できないと思いますが……。
 マルロー いまから三十年以内には、核戦争は起こらないでしょう。これについて、現実に起こったある事柄から、これから起こることの象徴、すなわち現実の象徴といったことをお話ししたいと思います。池田会長は、ひじょうに率直にものごとを理解なさるかたと思いますので、私もこの場合、歯に衣を着せないで、緊要な事柄をずばりとお話しいたします。
 具体例として、まず、イスラエルを例にとりましょう。現在、この国は、三個の原爆を持っています。ほかに、プラス飛行機等、まあ、いろいろと持っている。かりにこの三個の原爆中の一個を、アスワン・ダムで爆発させるというと、アスワン・ダムだけを破壊したと彼らは思うでしょうけれども、じっさいにはそこからナイルの堤防が決壊して、けっきょく、全エジプトが破壊されてしまう結果になるのです。だからイスラエルはあえて原爆を使用しなかった。
 池田 そのとおりだと思います。恐るべきことです。
 マルロー ソ連としては、したがってイスラエルに、もしおまえのところで、たとえ小さな原爆一個でも使ったならば、おれのほうから、でっかいのをお見舞い申す、というふうなことをいっているわけです。そこからして、小原爆を持てる国は大原爆を持てる国によって統制され、大原爆を持った国はそれを使用できないといった状況が出現している。それというのも、結果は地球壊滅ですからね。まことに核の脅威は否定的な、恐るべきものといわざるをえない。まさに悪魔です。
 池田 では、三十年以降には起こる可能性があるといわれるのですか?
 マルロー その点、よくご了解願いたいのですが、三十年以内には起こらないだろうと申しあげたのは、それからあとについてはわからない、ということです。
 私としては三十年までは予測することができる。はっきりと、起こらないといえる。その後についてはわからないということであって、その後に起こるというふうに申しあげることもできないわけで、それはちょうど、いま日本に、毎年二百万人の新生児があるからといって、いまから二十年、三十年後も同じリズムで生まれるとはいえないことと同様です。しばらくそういうカーブはつづくだろうけれども、ということです。
 池田 おっしゃる意味はわかります。

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