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日蓮大聖人・池田大作

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実践者の対話――――桑原武夫  

「人間革命と人間の条件」アンドレ・マルロー(池田大作全集第4巻)

前後
4  いまは不可知論者と自称するマルローは、初期にはあらゆる伝統的価値を否定するニヒリストとして出発している。いまは道徳の必要を説き、日本こそ新しい人間形成の典型を打ち出しうる最後の国とまで期待を寄せる。しかし、その典型の基礎を伝統的な武士道と禅の結合に求めるとき、彼が日本の大衆社会的現状をどこまで的確に把握しているのか、いささか不安をおぼえる。彼は仏教精神の可能性を認めるが、その関心はもっぱらエリート的な禅にあって、創価学会のよって立つ日蓮や浄土といった民衆的新仏教は、あまり視野に入っていないのではなかろうか。そして好悪をこえて、今日の日本社会に浸透しているのは新仏教ではなかろうか。
 ここにエリート的と民衆的と二つの基本姿勢の相違があり、これが対話全体を通して認められる。エリートは、啓蒙哲学は超越されたとして個人的むしろ英雄的創意の必要を考えるであろうが、しかし、「世界人権宣言」「日本国憲法」などは、すべて人間の完成可能性を信ずる啓蒙哲学に基礎をおくものである。そして池田会長はそこに立ち、民衆を信頼して社会運動に挺身するのである。
 大実践者の対話からは実践上の大きな結論が出るはずと性急な期待をもつべきではなかろう。ただ荒海のなかで氷山の二つの先端がひらめき合っている。その閃光が読者の心にどのような灯をともすか。それがやがて大きな炬火として海を照らすか、それとも水しぶきに濡れて消えてしまうか。それは読者めいめいの思いめぐらすことである。

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