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日蓮大聖人・池田大作

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軍縮及び核兵器廃絶への提言 第2回国連軍縮特別総会ヘ

1982.6.5 「平和提言」「記念講演」「論文」(池田大作全集第1巻)

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2  従って、この特別総会に向ける世界の人々の注目と期待は、極めて大きなものがあります。それだけに人類の英知を結集し、この総会で軍縮への確たる道が開かれねばなりません。核軍縮の専門家でもない私が、あえて第一回総会に続いて、今回「核軍縮及び核廃絶への新たな提言」を申し述べるのも、そうしたやむにやまれぬ心情からであります。この提言から、一人の宗教者の人類滅亡への強い危機感をおくみとりくだされば幸いです。
 私は、ここで事態は切迫していると申し上げました。核兵器をめぐる米ソの対決は、明らかに前回、総会が開かれた四年前より危険な状況になっております。それは端的に言って、核兵器を今や″使える″とみなす考え方が支配的になりつつあるからです。
3  従来、核兵器はそのあまりに強大な破壊力ゆえに、互いに脅かし合うための″使えない″兵器であると考えられていました。すなわち、核戦争を相互に抑止するための報復力として考えられていました。ところがここ数年、テクノロジーの進歩が核兵器の命中精度を飛躍的に向上させました。これによって相手の都市ではなく、ミサイル基地そのものを攻撃し破壊する(カウンターフォース=対軍事力攻撃)という戦略への基本的な変化がみられます。
4  ということは、核兵器を最初に使用することによって核戦争に勝利しうるという危険な考え方が出ていることを意味します。こうした戦略が支配的になれば、核抑止力のもとで、核兵器と共存しながら人類は生きられるという考え方は、完全に成り立たなくなると言えましょう。核抑止論は必然的に崩壊せざるを得なくなっています。
 核兵器を絶対悪とみなし、核廃絶という遠大な目標を追求するのは当然としても、その前に核兵器のボタンを誰かが押してしまえばすべてが終わりです。昨年来、ヨーロッパ及びアメリカ各地で嵐のごとく巻き起こった反核兵器の民衆運動は、自らの住む地域がその核戦争の戦場にされるのではないかという強い危機感があったためでありましょう。
5  軍縮を担うNGOに期待
 たしかに核兵器をめぐる客観的状況は、悪化の一途をたどっている。しかし、私は決してペシミスティック(悲観的)になる必要はないと思う。人類の未来に絶望してはならないと考えます。ヨーロッパの各地に芽生えた核廃絶へのいちずな思いを世界に広げ、人類の英知を結集すれば、必ず道は開けると確信するからです。「ノーモア・ヒロシマ」は「ノー・ユーロシマ」と言い換えられ、欧州反核運動の一大スローガンとなったように、この素朴な怒りと英知をもって全世界の草の根の人々が立ち上がることが大事でありましょう。核兵器といえども人間の手で作り上げたものである以上、人間の手で廃棄しえないわけがないのです。
6  前回の軍縮特別総会への提言の中で、私は軍縮が進展しない四つの要因を挙げました。その第一は、国家間、特に核大国間の根強い相互不信感であります。米ソ両国が不信感と恐怖感にあおられて、軍備の拡張に走るという基本パターンは、依然として変わっていないどころか、事態は一層、深刻化しているといわねばなりません。
 軍縮を阻害している第二の要因は、国家エゴの問題です。特に潜在的核保有国への核拡散を制限しつつ、自らは人類を何十回にもわたって殲滅させうる核の刃に、磨きをかけることをやめようとしない核大国のエゴイズムは、軍縮問題の宿痾しゅくあともいうべきものであります。
 第三に、核軍縮がままならぬ原因として、核不感症、すなわち一部の人々を除いては、核に対してあまりに鈍感すぎたという点であります。
 第四の要因として、軍部を除いても、核超大国内の原子力資本や研究陣、官僚機構などが、容易に引き返すことのできないほどにまで巨大化してしまったという事実です。
 核軍拡へのエスカレートを食い止め、更には軍縮を実現するためにはこうした核軍縮を阻害している要因を一つ一つ取り除いていく以外にありません。なかんずく、この国家中心志向を廃絶し、併せて核保有国の国民の平和への意思を結集し、国内の構造的な軍拡要因を取り除く方向が考えられねばなりません。
 この点で、私はトランスナショナリズム(脱国家主義)に立脚したNGO(非政府機関)こそ、軍縮を実現する大きな役割を担うものと考えております。
 周知のように初の軍縮特別総会を開催する牽引車となったのは、非同盟諸国並びにNGOでありました。前回の総会には、国境を超えた人々の連帯のもとに、世界の平和と軍縮の実現を目指して、約千三百人のNGO代表が集いました。これらの人々が国家の枠を超えた全人類的な立場から、国家間組織である国連の場で軍縮の必要性を訴えたことは、画期的な出来事でありました。それは前回特別総会最終日にワルトハイム事務総長(当時)が、NGOの活躍と貢献を高く評価する発言をしたことでも明瞭です。こうしたNGOの勢いは、今回更に加速度を増すものと思われます。
 現在、反戦平和、反公害、エコロジー等の全人類的課題に取り組んでいるNGOの数は、一万にも達しているといわれます。
 我が創価学会も国連広報局NGOの正式メンバーであり(注・昭和58年2月には、国連経済社会理事会のNGOとして承認された)、その会員は日本国内で一千万を超えています。更に世界九十数力国にメンバーが幅広く平和のための活動を進めております。
 日本国内においては、創価学会青年部及び婦人部が中心となり、それぞれ反戦出版五十九巻及び三巻を六年有半の歳月をかけて刊行し(注・昭和57年6月現在)、その一部分は既に英語版でも刊行されています。また、引き続き新たな反戦出版の刊行を開始しております。これらは、戦争を知らない青年世代の手による戦争体験の継承・記録運動として、日本及び海外において他に類をみない画期的な広がりを持つものとして反響を呼んでいます。更に全国各地での反戦・反核展の開催も、幾多の市民に平和への確かな意思を目覚めさせつつあります。
7  また、国際的な広がりについて一言触れるならば、私は世界各国の指導者、文化人との会談等においても、世界平和実現へ向けて国連支援の活動、提言を一貫して進めてきました。一九七五年一月には、ワルトハイム国連事務総長(当時)と会談し、創価学会青年部の手になる核廃絶のための一千万署名簿を手渡しております。これらの動きに呼応し、創価学会青年部はインドシナ、アフリカの難民救済募金などの活動を推進してきましたし、日本国内では「国連展」の開催、「国連講座」の実施などの活動も繰り広げてきました。かねてから私が、「国連を守る世界市民の会」の設置を提案してきたのも、国家の枠を超えた世界市民としての自覚に立った人々の連帯を強め、国連を中心に世界平和と軍縮の実現を目指そうとしているからにほかなりません。
 言うまでもなくNGOは、単なる国益という狭い立場からではなく、脱国家的な地点から人類の平和と福祉を実現することを目的にしております。国際社会において主権国家が相変わらずその立場を強めているようにみえますが、そうした国家優先の考え方、国家単位のアプローチでは解決しえない問題が数多く発生していることも否定できません。とりわけ平和をいかに構築するかということになると、国家中心主義的発想はむしろ弊害のみが目立つのであります。
8  核大国に不使用の誓約迫れ
 私は今回の軍縮特別総会は、こうした国家間の対立を一歩高い次元で乗り越え、世界の民衆の反核、反軍拡の願いをいかに反映しうるかに成否のカギがかかっていると考えています。
 その意味で、私は現在の国連総会のシステムでは、こうした世界の民衆の反核、軍縮の願いが十分反映しえないことを憂慮しております。国連はこれまでの歴史的経緯から、安保理事会の機能が重視され、それだけに拒否権を持つ大国の対立が多くの人々に国連に対する無力感をかきたててきました。従って、国連軍縮特別総会の持つ意味は大きいのですが、それを現状で米ソに核軍縮への具体的なプログラムを約束させうるかとなると残念ながら疑問視せざるを得ません。
 なぜ、今日まで数多くの核軍縮プランが提出され、国際的会議で論議されながら、実りがなかったのか。それは、核軍縮を行うべき主体である米ソ両国が、自国の国益を優先するばかりで核軍縮の積極的意思を持たない限り、いかに非核保有国が具体的な軍縮プランを持っても不可能であるからです。
 ここに現在の核軍縮の最大の困難な壁があります。この壁を打ち破らない限り、核軍縮の展望は開けない。
 米ソ両国が、核兵器を前面にかざして対決している状況では、両国が歩み寄って手を握らない限り、安全保障理事会も有効には機能し得なくなっております。例えば、一昨年の第二十五回国連総会で包括的核実験禁止条約を求めた二つの解決案が圧倒的多数国の賛成で採択されました。しかし、五大核保有国は、反対の投票や棄権によって対応するのみで、結果的に核実験は依然として続けられております。
9  私は、前回の特別総会を前にして、核廃絶と核軍縮のための十項目の具体的な提言を行いました。そこでは核不使用協定や新型核兵器開発停止の国際協定を結ぶこと等の幾つかの提言をいたしました。前述したように、核戦争の脅威が人々の心を一層不安にしている現在、差し迫った課題として、核保有国、とりわけ米ソに核兵器の先制使用をしない旨の誓約をさせねばなりますまい。今回の総会で非核保有国の総意をもって、これを要求する総会決議を行い、核保有国に誓約を迫ってほしい。私がこの点を緊急の課題と考えるのは、何よりも限定核戦争などという全く非人道的な戦略思想がまかりとおっている現状を憂えるからです。
 そして当面、核兵器の現状凍結を要求し、それが実現した場合には、具体的な核兵器消滅のプログラムを練り上げてほしいと思う。
 と同時に、米ソに核軍縮を迫るのみでなく、すべての核兵器の廃絶を願う非核保有国が、自主的に取り組めるプランを考えることが必要でありましょう。米ソの意思にかかわらず、非核保有国が決意すればできる軍縮プランによって、国連のシステムの脆弱さをカバーできれば効果的であります。
10  「非核平和ゾーン」の設置を
 私は、かつて「二十一世紀への平和路線」という論文の中で、今後の平和路線の進め方として、国連の権限を強め、その平和維持機能を高めるとともに、それを当面の場として、新たな世界秩序へのシステムを探ること。ただし、その場合も、力によるものであってはならないことを提言しました。
 更に、国内的に言えば地域や地方、国際間で言えば各民族の自主性、自立性を最大限に尊重すること。その民衆次元の草の根民主主義なくして、安定した世界平和を求めることはできないと主張しました。
 私は、この基本的考え方に立脚して、世界の各地域、各民族の自主性、自立性を尊重しつつ、国連の平和維持機能を強める方向で、軍縮をいかに実現すべきかを考えてみたいと思います。
11  そこで、私は前回提言したプランのうち、第四番の提案である「非核平和ゾーン」の設置と、その領域の拡大とを国連が推進すべきであるという点を今回更に詳細に煮詰めてみたい。この具体的な進め方について前回の提言では、まず「核不使用協定」に調印した国の中で、自ら希望する国または数力国のグループが、それぞれ話し合いによって「非核平和ゾーン」を設定し、その領域内に核兵器を持ち込まないことは当然として、既に核兵器が保有されている場合は速やかに撤去し、それによって他国から核攻撃を受けない安全を保障すべきである。そして、これが現実化するならば、国連は「非核平和ゾーン」の拡大に努め、やがては地球上のすべての地域が平和ゾーンとなるようにする、とだけ申し上げました。
 非核地帯に関しては、既に第一回国連軍縮特別総会の最終文書の中でも触れられておりますが、こうした非核地帯の構想が、最近特にクローズアップされてきたことに注目したい。参加者数百万以上といわれる昨年のヨーロッパ及び本年のアメリカの反核運動は、本年の主要行動目標に「非核地帯の実現」を掲げています。私は、ここに単なるスローガンから、今や実践へと動き出した兆しを感じるのです。
 現在、「欧州非核地帯」構想は幾つかありますが、私は中でもアルバ・ミュルダール女史(元スウェーデン軍縮相)の構想に注目したい。この構想の特徴は、各国の状況に応じて幾つかの段階を踏んで非核地帯化を目指したものであります。
12  まず、第一段階として、NATO(北大西洋条約機構)やワルシャワ条約機構のどれにも加盟していない国、すなわち、スウェーデン、フィンランド、ユーゴスラビア、オーストリア、スイスの五カ国が非核地帯化する。次に、北欧のデンマーク、ノルウェーに広げる。そして、中欧、特に東西ドイツ、ポーランド、チェコ、次いでオランダ、ベルギー、ルーマニアなどに広げる。また、南欧のイタリア、ギリシャ、トルコにも広げたいとしています。
 基本的な私の考え方も、こうした段階を踏みながら、欧州、アジア、南太平洋、アフリカ、中近東の各地域に非核平和地帯を広げていこうとするものであります。
 既に、非核地帯は、一九六七年に結ばれた「トラテロルコ条約」によって最初の条約化がなされています。この条約の正式名称は「ラテン・アメリカにおける核兵器の禁止のための条約」で、前文及び三十一カ条から成っています。ラテン・アメリカの国々が、いかなる核兵器の受領、貯蔵、設置、配備、及びいかなる形での保有はもちろん、その実験、使用、製造、生産、あるいはいかなる手段による取得も、これを禁止する(第一条)というものです。
13  ″核不使用″要求を総会決議に
 これには、二つの付属議定書がついています。第一議定書は三カ条から成り、その第一条は、ラテン・アメリカ以外の条約加盟国が「条約」で確立された地帯に自分の国の核兵器を持ち込まない、というものであり、第二議定書は五カ条より成り、その第三条は「条約」に加盟しているラテン・アメリカの国々に対して核兵器を用いたり、用いるといって威嚇したりするようなことはしない、というものです。米、ソ、英、仏、中国の核保有国が、二つの議定書に署名しているのは注目されます。一九七九年四月現在、メキシコ、ブラジル、エルサルバドル、ベネズエラ等二十五カ国が署名、うち二十四カ国が批准しております。
 私は、欧州をはじめ世界各国がそれぞれの民衆の主体的な意思により「非核宣言」に踏み切ってほしいと思っています。そして、各国政府に対し「核兵器を生産しない。核兵器を保持しない。核兵器を持ち込ませない」との非核三原則の堅持を要求すべきであります。
 昨年、国連総会で「核不使用決議案」が提出されました。その内容は「核保有国は核を持たず、また、おいていない国に対して、核攻撃したり、核で威嚇したりするようなことをしないと宣言すべきである。なぜなら、それは国連憲章の侵犯であり、かつ人類に対する犯罪であるから」というものです。これには既に百二十一カ国が賛成しています。私は、非核三原則を国際的なものにするために、まず、核保有国に対し核不使用宣言を要求し、併せてその協定化を進める必要があると考えます。
 幸い徐々にではありますが、こうした機運が生じてきています。例えば、英国では自分達の住む地域を「非核市町村」と宣言して、その勢いを世界中に広げようという動きが広がっていると聞いております。自らの市町村を核兵器運搬の車両が通ったり、核兵器の貯蔵のために提供しないという意思表示をしたというのです。イングランド中央部サウスコークシャー州が英国で初めて「非核自治体」宣言をしたのに続き、今や英国全土では千二百以上の市町村が何らかの形で「非核自治体宣言」の具体化に動いております。核保有国である英国で、こうした動きが広がっていることは、非核地帯構想が決して非現実的なものでなくなっている一つの証拠と言えましょう。
14  平和機構の特別委員会発足を
 私は、前回の提言で、単に「非核地帯」と言わず「非核平和地帯」と名づけました。これには、それだけの理由があります。というのは、こうした地域的非核化構想を、単に核兵器の除去という問題だけに限定してはならないと考えるからです。
 たとえ核兵器が除去されたとしても、その地域で通常兵器による紛争が発生すれば、緊張激化にともない、有名無実化する恐れがあるからであります。問題は非核地帯から通常兵器による紛争の危機の芽をも摘み取ることです。そのために、私は、この非核地帯は更に地域的な平和保障機構として、発展的に組織化されねばならないと考えるものであります。
 前述したトラテロルコ条約では、この条約の義務を履行させるため、締約国は「ラテン・アメリカにおける核兵器禁止に関する条約機構」(略称OPANAL)という国際機関を設立することが定められており、この機関で検証、査察などの管理が遂行されています。
 私は、世界の各非核地域はこうした管理とともに、通常兵器による紛争の芽を摘み取り、もし、紛争が生じた場合には、実質的な解決手段を講じられるような実行力を持った機構にすべきであると思う。
 そうした非核地域平和保障機構を国連の正式機関として発足させ、今大きな問題となっている国連の平和維持機能を強化する手段とすべきであります。私は、今回の特別総会でこの「非核地域平和保障機構創出のための国連特別委員会」を作り、これまでの非核地帯構想と併せ、具体的な検討へのスタートをしてほしいと念願するものです。
 もし、世界の各地に非核地帯を中核にした地域平和保障機構が実現するならば、世界の緊張は一挙に緩和され、軍縮の条件が大きく整うことになるでありましょう。そうすれば米国もソ連も、いたずらに核兵器の増強競争をすることが無意味になります。
15  これまでのように、米ソに核軍縮の実行を迫るだけでは、軍縮への道はなかなか開けません。むしろ世界の紛争の芽を摘み取り、緊張を緩和させ、米ソが核軍縮に踏み切る環境作りをすることこそ重要であります。平和を願う諸国民の意思を結集すれば、この私の構想は決して不可能ではありますまい。私は今こそ非核保有国は連帯し、米ソに対する全地球的な平和の包囲網を形成するステップを踏み出すべきだと申し上げたい。
 もとより、私の構想が一朝一夕で成しうるとは思ってもいません。核廃絶への道のりは、いかにも遠い。しかし反核兵器への人々の意思は、単に非核保有国のみならず、核保有国にもみられることに注目したいものです。
 昨年、元モスクワ駐在米大使ジョージ・F・ケナン氏は「米ソ両大国が現在保持している核兵器庫の五〇%を、即座に全部門にわたって削減」すべきだと提案しました。昨年十二月のギャラップ世論調査によれば、この核兵器削減案は、アメリカ国民の七六%の賛成を集め、反対は一九%、無回答が五%でした。すなわち、レーガン大統領が、もしソ連に対し、米ソ両国の現有核兵器を半減するよう提案したとすれば、アメリカ国民は四対一の大差で大統領を支持するということであります。
16  膨大な軍事費を平和のために
 むろん現状が決して楽観を許さないということはよく承知しております。米ソとも多年の核軍備の増強政策によって、軍事力信仰が国民の中に根強く存在することはいうまでもありません。それは、容易には変えられないという意見もあります。
 しかし、その牢固とした軍事力信仰に、最近かげりがみえていることも事実であります。すなわち、現在のような軍備競争が続く限り、経済的、社会的必要及び世界の人々の願望を十分に満たすことがますます難しくなる、という認識が深まっているからです。
 昨年十月、国連軍縮問題専門家グループによる「軍縮と開発の関係に関する研究」という報告書が公表されました。この報告書によれば、現在、約五千万の人々が全世界で直接、間接に軍事活動に従事している。その内訳は、世界の正規軍の兵力約二千五百万人以上、世界の民兵の兵力がおよそ一千万人以上、全世界で国防省に雇われている文民が、およそ四百万人、軍事目的のための調査開発に従事している科学者が推定五十万人、武器その他軍用特殊装備の生産に直接従事している労働者が少なくとも五百万人となっています。
17  更に軍事費でいえば、一九六〇年から八〇年にかけての二十年間に世界の軍事費は年平均約三%ずつ増え続け、八〇年には総額五千億ドルに達した。今後も年平均約二%ずつ増え続ければ、西暦二〇〇〇年の世界各国の軍事費は、総額九千三十億ドルとなります。そうなれば、民需に回るべき資源の約四五%が軍需に回ることになると同報告書は指摘しております。
 まさに、人的資源を含めた地球上の資源の浪費、これ以上のものはないといえましょう。私がここで言いたいことは、もはやこうした軍事力のみが国の安全保障になるという考え方から一日も早く脱却すべきであるということであります。私は、南北双方とも「脅威に対抗できるものは軍事力だけだ」「軍事的な力の大きさが国家の威信を高める」という既成の安全保障観を再考すべきであると思います。何よりも膨大な核戦力が対峙している以上、いかに軍事力を増強させようと、とうてい真の平和は保ちえないからです。むしろ前述したように非核地域平和保障機構を創設し、世界全体を緊張緩和、軍縮の方向に向けることこそ真の安全保障の道につながると思うのです。
 そこで、私が提案したいのは、膨大な軍事費の一部を割いて、その非核地域平和保障機構創設のための準備基金とすることです。基本的には、各地域に位置する国々が、それぞれ軍事費の一部を削減し、それに充てればよいと考えます。その額がどのくらいあれば適当かは、先に提案した「非核地域平和保障機構創出のための国連特別委員会」が検討することになりましょう。私は、日本はアジア各国に先駆けて、その準備基金の拠出にあたるべきであることを付言しておきます。
18  私は、第一回の軍縮特別総会への提言の中で、核開発をはじめとする軍備増強のための膨大な軍事費を人類の英知と繁栄のために振り向けていくための方策に言及しました。国連内に仮称「軍縮のための経済転換計画委員会」を組織化し、そこで軍縮にともなう新たな国際的経済秩序を形成する構想を検討してほしいと提言いたしました。
 私は、一九八〇年代の世界経済を展望した場合、世界的軍縮による資源の平和的利用への道を開くことが、いよいよ緊急事となっている気がしてなりません。もし、八〇年代に経済的、軍事的危機の打開のための政策転換を目指した全地球的な軍縮計画が進展するならば、南北間の所得格差が縮小するばかりか、経済力からみた各国の国力は充実し、全人類的福祉の向上と平和維持が期待できるものと確信しております。今回の第二回軍縮特別総会が、その輝ける人類社会の未来に向かって、全地球的な軍縮への第一歩を踏み出す契機となることを願ってやみません。
19  「ヒロシマ・ナガサキ展」開催を
 次に、核兵器の破壊力、核兵器配備の実態を広く世界の民衆に啓発し、核廃絶への国際世論を高めるための運動を進めることを提言したい。言うまでもなく、非核地帯の構築のためには、反核の民衆の意識の定着、深化が不可欠であり、この運動の進展が、世界の非核地帯化のカギを握っているといえましょう。
 この点に関しては、私は、第一回総会への提言の中で、幾つか具体案を示しました。それらを踏まえて、私は、まず第一に各国NGOの総力を結集し「ヒロシマ・ナガサキ展」の世界各地での開催を進めてほしい。この提案は、日本で創価学会青年平和会議が中心となり、各地で「反戦・反核展」を開催し、多くの人々に反核意識を植え付け、深化させることができた成果を踏まえての提言であります。
 更に、ヒロシマ、ナガサキの被爆の映画の各国語版のリプリントを進め、世界各地での上映運動を展開することも有効でありましょう。テレビ等のマスメディアを通じての啓蒙も、当然必要であります。
 そこで、私は、各国において核廃絶の意識を高め、国内の展示、情報提供のセンターとして機能する常設の「反核平和館」を開設してはどうかと考えます。日本では、既に私どもの試みとして、反戦、平和を訴える「戸田平和記念館」を常設し、その機能を発揮しております。
 前回の総会に際し、私は、戦争の悲惨、残酷さ、核兵器の破壊力、ヒロシマ、ナガサキの被爆の実態、現在の核兵器の状況などを示す文書、写真、映画、ビデオ、絵画、その他の資料を収集、展覧し、国連を訪れる人々に公開する、そしてそれらの資料が世界各地で活用されるよう推進するセンターとして「平和のための資料館」を国連に開設せよ、と提言しました。この仮称「国連平和館」をセンターにして、各国の「反核平和館」が機能していくならば、反戦、反核意識は大きく高揚していくと思うのです。
 以上の私の提案が、今回の軍縮特別総会を成功に導くための、ささやかな手助け、何らかの参考になれば、望外の喜びであります。第二回国連軍縮特別総会の実りある成果を、一民間人として心より期待するものであります。
 (昭和57年6月5日 「聖教新聞」掲載)

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