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宇宙と生命と死  

「人生問答」松下幸之助(池田大作全集第8巻)

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31  東洋医学の評価
 中国の鍼麻酔手術のテレビ公開が機縁となっ東洋医学(漢方医学)への評価が高まっています。
 東洋医学は、中国民族の長い経験の集積と、中国古代の生命観であり、宇宙観でもあった陰陽五行説とがあいまって、西洋近代医学とは異なった医学の一潮流をなしてきました。
 私は、西洋的な意味での科学化はなされていないとはいえ、中国民族の経験の精華を謙虚に学ぶ必要があるとともに、今後は、陰陽五行説という生命観にも考察の光があてられるべきだと考えます。
 さて、陰陽五行説のうち、陰陽説については、宇宙と生命の展開を見事に洞察した深い直観智がきらめいていると思いますが、いかがでしょうか。
 また、五行説も、その発想の基盤には、みるべきものがけっして少なくはないと考えますが、あまりにも形式化しすぎたために、観念的なものになってしまっていると推測したいのです。この点に関しても、ご意見をお聞かせください。
 松下 私は医学に関しては門外漢であって、深い知識はありませんが、しかし人間が数千年にわたって進歩し、発達してきたという過程においては、西洋医学、東洋医学、いろいろの医学のなかに生きてきたわけです。ですから、西洋医学を尊しとするとか、東洋医学を低しとするといったように形式的には評価できないと思います。われわれの祖先が現にそれによって生き、発展してきていることを考えれば、そういう長い間の医学体験というものは、大いに尊重すべきものではないでしょうか。だから、東洋医学が旧式で、西洋医学が新式だというように軽々に評価すべきではなく、もっと慎重に考えなくてはならないと思うのです。
 ことに最近は、すべて物事には行き過ぎがあって、そこから弊害が起こってくることもだんだんわかってきました。進歩があっても、その進歩のためにかえって弊害が生まれるといったように、厳密にいうと物事にはすべて功罪が相なかばしてつきまとっているように思われます。
 その意味では、今日、東洋医学にも非常に貴重なものがたくさんあるというような反省の時期にきているともいえましょう。現に、西洋医学よりも東洋医学のほうを好むという人もありますし、また薬物にしても、病気によっては西洋薬物よりも東洋薬物のほうがいいという考え方が最近は起こってきているようです。
 そういう点から考えまして、東洋医学にも大きな健置があり、西洋医学とともに慌用されることがあっていいと思います。ただ、願わくは、それが名医によって併用されることが望ましいと思うのです。
 陰陽五行説というのは、ごく平易に考えますと、この宇宙の森羅万象は、陰陽二つの気の働きと、木、人、土、金、水の循環流行によって生ずるというものだと思います。私は、どういう人が考えたのかは知りませんが、何千年も昔に、こういう形で森羅万象の根底をなすものを認識したというのは、驚くべきことだと思います。静かに考えてみますと、今日のわれわれも、意識するとしないとにかかわらず、こうした考え方によって生かされているのではないでしょうか。中国にこのような考えが生まれ、また周辺の国がそれを取り入れて、数千年にわたって社会生活をしてきた、そういうことを今あらためて考える時期にきているのではないかと思います。
 いずれにしても、日本はまことに幸いなことに、一方では中国という古い先輩をもち、他方、西洋の新しい医学も取り入れているわけですから、それを巧みに使いわけ、併用していくことが大切だと思います。そして、それは先にものべましたように、名医によってなされることが一番望ましいわけですが、ただ、そのためには国民がそういう意味の認識をもつことが必要で、さもないと名医も生まれてはこないでしょう。

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