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豊かな人生  

「人生問答」松下幸之助(池田大作全集第8巻)

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32  影響を受けた人物
 池田 これまでの人生にあって、最も強く影響を受けた人物なり、書物なりを、よろしければお聞かせください。
 松下 私がこれまで最も強く影響を受けた人ということですが、今静かに考えてみますと、ある特定の人の影響を受けたというよりは、非常に多くの人の影響を受けつつ今日まできたというような感じがいたします。
 つまり、これまでの人生において、直接に接した人はもちろん、会ったことがなくても、話に聞いたり本で読んだ人、そういったあらゆる人びとの影響を、強弱いずれにしろ、受けていると思うのです。たとえば、私が奉公に出ていた子供のころ、店にこられたお客さまから、よく「タバコを買ってきてくれ」と頼まれることがありました。そんなささいなことでも、お客さまによって、頼み方、物の言い方が違うわけです。それで、この人はいい人だなとか、この人はどうもいい感じがしないとかいうことを子供心にも感じ、自分が人に物を頼むときはこうしたらいいなというように、やはりそこで影響を受けたというか学ぶものがありました。
 そのように、日常、なにげなく接した多くの有名、無名の人びとから、それぞれに、よき経験を与えられつつ、いわば教えられずして教えられてきたわけです。したがって、そういう意味では私の場合、接した人はみな、なんらかの手本となったともいえましょう。
 ただ、あえて申しますならば、私は聖徳太子という方を非常に尊敬申し上げており、それだけそのご業績に学ぶところが大きかったように思います。あの十七条憲法の条文の一つ一つをみましても、太子がいかに人間というものを正しくつかんでおられるか、そしてそれを政治のうえに生かそうとされているかがわかり、まことに感銘させられるものがあります。たとえば「和を以て貴しと為し、さからうこと無きを宗と為よ。人皆党有り……」という第一条にしても、派閥というものを人間がつくりやすいこと、いいかえれば派閥をつくるのは人間の本性であることを認めたうえで、だから争わず仲良くしなさいと教えておられます。今日のわが国で、そういった人間の本性に対する深い洞察なしに、ただ派閥それ自体がいけないとするような見方が強いことを思うとき、こうした十七条憲法の内容、さらにはそこに盛られた精神というものに深い感銘を受けるのです。
 したがって、あえて最も強い影響を受けた人をあげるとすれば、この聖徳太子の御名をあげたいと思います。書物については、これまでほとんどそういうものを読んでおりませんので、とくにこれというような書物はございません。

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