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日蓮大聖人・池田大作

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3 宇宙開発競争  

「二十一世紀への対話」アーノルド・トインビー(池田大作全集第3巻)

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1  池田 私は、宇宙開発にそれなりの意義を認めることには躊躇しませんが、現在の宇宙開発は莫大な費用を要するだけに、にわかには賛成しかねています。この地上から悲惨をなくすことにこそ全力をあげるべきであり、そうした現実の地球社会の福祉を犠牲にした宇宙開発であっては意味がないと思います。国家の威信をかけてしのぎを削り、国家予算に大きな歪みをもたらし、その結果、公害や貧困を救えないとしたら、これほど無益なことはありませんし、かえって有害でさえあるからです。
 宇宙開発は、やはり地上の幸福を前提としてなされるべき事業であり、その前提に立って科学技術の各分野との調和ある発達を期すべきだと思います。それにかける予算の割合を、常に考慮していかなくてはならないと思います。
 トインビー 私も原則的には宇宙開発に反対するものではありません。この事業に要請される勇気、技術、共同作業にはそれぞれ効果があり、またこれによって得られる物理的宇宙に関する知識の増大にも価値があります。しかしながら、ご指摘の二つの理由から、私も現在の宇宙開発には反対です。
 第一に、現在の宇宙開発のおもな動機が、科学的探究心から発したものではなく、地球上の主導権をめぐる米ソ間の競争にある点です。この競争では、宇宙開発で首尾よく壮挙を成し遂げると、その威信が核兵器の保有と同じように、両国の力関係における錘の一つとなるからです。
 第二に、宇宙開発の莫大な出費は、いまだ衣食住にこと欠く、人類の貧困多数者の需要を満たすことよりも優先させるべきではないという点です。人類の資源には限度があり、それゆえに資源の利用をめぐって、何を優先させるかが重大問題です。
 池田 宇宙開発は莫大な費用を要します。しかも、これを各国がバラバラに進めているのですから、ムダであることこのうえもありません。
 南極大陸における地球物理観測が、多くの国の協力によって円滑に行われているように、宇宙開発が各国の共同のもとに行われるようになれば、科学技術開発の面でも、費用削減の面でも、きわめて有効であることは疑う余地がありません。もちろん、これには軍事的な思惑が絡んでいますので、南極探検のようなわけにはいかないでしょうが、ぜひとも努力しなければならない点と考えます。
 トインビー 私は、人類の四分の三を占める貧困者層の物質的生活水準が、富裕少数者の現水準にまで向上した段階でなら、宇宙開発費を、人類の余剰支出として最優先すべきかどうか考えることもよいと思います。そして、そのとき宇宙開発を進めることが、社会的にも倫理的にも正当であると決定されたなら、そのうえで、米ソ間の政治的動機による競争としてではなく、全地球的な共同事業として進めるべきです。この点、私もあなたのご意見に賛成です。
 現状では貧困者の犠牲のうえに宇宙開発が進められており、そのため私には、宇宙開発が正当化できない贅沢なものに思えてなりません。これでは未来の世代が現代を振り返ったとき、宇宙開発はピラミッドやアンコール・ワット、ルイ十四世のベルサイユ宮殿と同じように、富裕少数者の反社会的愚行であったと非難することが予想されます。

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