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2 アメリカ合衆国  

「二十一世紀への対話」アーノルド・トインビー(池田大作全集第3巻)

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2  (2) 積極的行動主義
 池田 今世紀における世界の動向の焦点の一つがアメリカであったことは、まぎれもない事実です。とくに第二次世界大戦においてフアシズムの嵐がヨーロッパに吹き荒れたとき、民主主義と自由の擁護のためにアメリカが果たした役割は、高く評価されてしかるべきだと思います。
 しかし、その後、米ソ対立のもとに世界を冷戦の渦中に巻き込み、朝鮮動乱、ベトナム戦争などに関与したことは、重大な誤りであったといわざるをえません。これについては、アメリカ国内においても反戦運動が繰り広げられ、″汚い戦争″といわれたベトナム戦争も、ようやく終息するに至りました。そこで問題は、アメリカは今後、国際政治においてどのような路線を進むかということです。いわゆる建国以来の基本路線であった孤立主義笙戻るのか、それとも現代世界の超大国として主導権を維持しようとするのか、博士の予測をお伺いしたいと思います。
 トインビー 第二次世界大戦勃発当時にアメリカ議会が通過成立させた″中立法″では、アメリカは不戦の決意を表明していました。真珠湾事件が起きなかったとしたら、アメリカはおそらく戦争に介入することはなかったでしょう。ところが驚いたことに、戦後のアメリカは国際的な積極的行動主義の政策を推し進めて、今日に至っています。これは″建国の父祖″たちが、国外紛争への介入を回避する有名な警告を発して以来の、従来のあらゆる政策にまったく反するものです。
 アメリカの積極的行動主義の政策のほとんどが共産諸国、とりわけソ連に向けられたことは注目に値します。かつてアメリカは二度の世界大戦で、ドイツと二回、日本と一回交戦したわけですが、実際の戦闘を別とすれば、この両国に対する敵対意識には激しいものがほとんどありません。ところがソ連に対しては、一九一七年以降、きわめて激しい反応を示してきたのです。これはいったい、なぜでしょうか。
 私には、これはアメリカ人がきわめて国内志向的で、そのため共産主義についても、国際政治の場で対処すべきものと考えないためであろうと思われます。それどころか、彼らは共産主義を富裕なアメリカ市民の懐を脅かす、国内的脅威とみなしています。日本やドイツは、たしかにアメリカの政治的安全を脅かしました。しかし、これらの国々は、共産主義の基本思想が与えるような、アメリカの富の共有化とか接収とかの脅威は与えませんでした。
 池田 私の見方は、アメリカに一貫して流れているのは、理想郷思想だということです。移民と開拓の当初から、アメリカ人の心には、旧世界をあとにして新しい天地に新しい国、理想的な社会をつくるのだという意気込みがあったと思うのです。モンロー主義は、そうした自国建設に専念するための手段であったと考えます。
 ところが、二十世紀に入って、三度の世界大戦はアメリカの孤立主義を許さなくなってしまいました。これらの大戦に介入した当初のアメリカの心情は、不承不承のものであったと推測します。ところが、アメリカの力がすでに世界の運命を左右する強大なものになっていることに自ら目覚めたとき、アメリカの人々は、理想郷建設の理念を世界的規模に広げて考えるようになっていたと思うのです。そして、ここから積極的な世界政策が生まれたと考えます。
 しかし、それはあくまで力を中心においたやり方であって、そのためにさまざまの問題が生じています。私は、アメリカがそうした理想主義をもって世界に臨むことに反対はしません。ただし、それは財力や武力によるのではなく、文化によるのでなければならないと考えます。
 トインビー ええ、まさにおっしゃる通りです。さいわいなことに中ソ紛争のおかげで、アメリカとしては、共産主義が自国を転覆させるのではないかという恐れを、いくぶんか和らげることができました。これにともなう緊張緩和によって、アメリカがもっと非好戦的、非敵対的な中ソ政策をとるよう、私は期待しています。これら三大国が人類のために力を合わせることこそ、全世界のためにきわめて重要だからです。
3  (3) 人種差別について
 池田 ところでアメリカの抱える国内問題の最大のものに、人種問題があります。アメリカ社会で主導権を握ってきたのはアングロ・サクソン系の市民です。これに対して、同じ白人でも、ラテン系市民は恵まれない立場にあるようです。さらに、黒人や、アメリカの先住民であるインディアンは、悲惨とさえいえる立場におかれています。
 トインビー アメリカにはたしかにその問題があります。アングロ・サクソン系の白人が特別の優位を占めているわけですが、ドイツ系、スカンジナビア系、オランダ系の白人も、同等の地位を分かちもっています。ご記憶のことでしょうが、ルーズベルト家はオランダ系です。
 しかし、人種差別は決してアメリカだけに特有の問題ではありません。イギリスでは、黒人の数はアメリカに比べて非常に少ないのですが、それでもイギリス国民の、彼らに対する憎しみの感情には似たようなものがあります。この問題については、われわれは皆、アメリカ人を批判するにも謙虚でなければなりません。
 われわれイギリス人は、遠い昔、先住民たちをウェールズの山中へと追いやりましたが、ウェールズの人々はこのことを決して忘れてはいません。日本人もまた、かつてアイヌを追い立てて、いまではほとんど北海道だけに居住地を限っています。もちろん、祖先たちが昔受けた仕打ちを覚えているアイヌは少ないでしょうが、彼らもこれまで時折は、かつて多くの土地を領有していたことを思い起こすことはあったでしょう。そのようなとき、アイヌたちは、失った土地を悔やみ、それを奪った人々に怒りを感じたのではないでしょうか。
 このようにみてきますと、他の多くの国民も人種的偏見をもっており、アメリカ人がインディアンから土地を奪ったのと、まったく同じことをしてきたことに気づくのです。
 池田 問題はそうした人種的偏見をいかになくすかですが、これは人々の心の中にあるものですから、その解決にはたいへんな困難がともなうでしょう。政府も良識ある人々も、努力はしているようですが、やはり一般市民の心には抜きがたいものがあるのでしょう。
 これを解決するには、現在のアメリカでも黒人だけの国、インディアンだけの国をつくってはどうかという人もあります。たしかにそれも一つの考えですが、イスラエルのようなケースになることも考えなければなりません。互いに憎しみ合ったままで独立の国をつくっても、争いはなくならないでしょう。いずれにしても、人々の心から憎悪や偏見をなくす以外に、本当の平和をもたらす方法はないと考えます。
 トインビー 私は、黒人たると白人たるとを問わず、自分たちだけの独立国をつくろうという望みをもっている人々は、あまりに楽観的に過ぎるのではないかと思っています。インディアンのなかにも、合衆国内に自分たちだけの州を与えてくれと要求している人々もいますが、これまでのインディアン居留地の歴史はきわめて悲惨です。彼らは考えうる最も粗悪な土地を与えられたわけですが、それらの土
 地は行政的にも不行き届きです。
 南アフリカの白人たちは、独立国の代用としてはあまりにも貧弱な土地へ、黒人たちを押し込めようとしています。いわゆる″バンツースタン″という居住地がそれですが、これにはあまり成功の見込みがありません。
 私の考えでは、黒いアメリカ人も白いアメリカ人も、平等、相互尊重、友好の立場に立って共存していく以外にありません。
 池田 いずれにせよ一国内の人種間の調和を図ることは、きわめて困難なことです。これを解決するための何かよい先例をご存じですか。
 トインビー ハワイはもちろん特殊なケースですが、ここではヨーロッパ系、日系、中国系のアメリカ人が、ともに住み、人種間結婚もして、明らかに調和を保っています。ハワイでこのように実現していることは、他の場所でも可能であるはずです。

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