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日蓮大聖人・池田大作

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第30巻 「雄飛」 雄飛

小説「新・人間革命」

前後
65  雄飛(65)
 トルストイの家と資料館を見学した山本伸一は、大文豪の生き方に勇気を得た思いがした。伸一は、トルストイが、最後の日記に残した言葉を噛み締めていた。
 ――「なすべきことをなせ、何があろうとも……」(『トルストイ全集58』フドージェストヴェンナヤ・リチェラトゥーラ(ロシア語))
 伸一は、「世界平和」即「世界広宣流布」という、生涯をかけて挑み抜かねばならない使命を深く感じていた。
 一行は、さらに国民経済達成博覧会の宇宙館も視察した。人工衛星などの展示に、あらためて宇宙開発にかけるソ連の意気込みを感じた。案内者に、伸一は感想を語った。
 「すばらしい技術力です。この優れた科学技術の力を、人類の平和と繁栄のために活用してください。世界中の人びとが、それを望み、期待しているでしょう」
 十六日は、八日間にわたるソ連訪問を終えてヨーロッパ入りし、西ドイツのフランクフルトに向かう日である。
 出発前、伸一たちは、エリューチン高等中等専門教育相夫妻に招かれ、モスクワ川とボルガ川を結ぶ運河を周航しながら懇談した。教育交流をめぐっての語らいに熱がこもった。船窓から見る岸辺には、美しい緑の景観が広がっていた。この運河によってモスクワは、白海、バルト海、カスピ海、アゾフ海、黒海の五海洋につながる内陸水路の要衝となり、いわば“港町”になったという。
 伸一は、教育交流は運河を建設することに似ていると思った。それは、国家やイデオロギー、民族等に分かたれた人間と人間とを、未来に向かって結び合い、平和の大海に至る友情の“港町”を創る作業であるからだ。
 伸一の一行は、午後七時、モスクワ大学のログノフ総長らの見送りを受け、モスクワのシェレメチェボ空港を飛び立った。サマータイムの北の都モスクワでは、まだ太陽は、まぶしいばかりに輝いていた。降り注ぐ光のなか、搭乗機は大空高く飛翔していった。
 “欧州では、大勢の同志が待っている!” 伸一の胸は躍った。

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