Nichiren・Ikeda
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第10巻 「新航路」
新航路
小説「新・人間革命」
前後
48 新航路(48)
ジル・エアネスの航海の成功は、小さな成功にすぎなかった。
カナリア諸島に近い、ボジャドール岬を越えただけであり、新航路の発見にはほど遠かった。しかし、その成功の意義は、限りなく大きく、深かった。
「暗黒の海」として、ひたすら恐れられていた岬の先が、実は、なんの変わりもない海であったことが明らかになり、人びとの心を覆っていた迷信の雲が、吹き払われたからである。
「暗黒の海」は、人間の心のなかにあったのだ。エアネスは、勇気の舵をもって、自身の″臆病の岬″を越えたのである。
ポルトガルの航海者の船は、アフリカ沿岸をさらに南下するようになるが、エンリケは、新航路の発見を待つことなく、一四六〇年に世を去る。
だが、エンリケによる人材の育成が礎となって、ポルトガルは、喜望峰の発見、インド航路の発見と、ヨーロッパからアフリカを回って東洋に至る新航路を次々と開き、「世界の王者」の地位をつくり上げていくのである。
山本伸一は、しみじみとした口調で語った。
「ポルトガルの歴史は、臆病では、前進も勝利もないことを教えている。
大聖人が『日蓮が弟子等は臆病にては叶うべからず』と仰せのように、広宣流布も臆病では絶対にできない。
広布の新航路を開くのは勇気だ。自身の心の″臆病の岬″を越えることだ」
それから伸一は、テージョ川の彼方を仰ぎながら語った。
「未来を築くということは、人間をつくることだ。それには教育しかない。
二十一世紀は、民族や国家などの壁を超えて、人類が、ともに人間として結ばれる、″精神の交流の時代″であり、″平和への大航海時代″としなければならない。
そのために、私も、いよいよ、創価高校、そして、創価大学の設立に着手するからね。私の最後の事業は、教育であると思っている。大切なのは礎だ。
輝ける未来を開こうよ。黄金の未来を創ろうよ」
西の空に燃える太陽が、記念碑を赤く染め始めた。
伸一の顔も燃えていた。
彼は、自らに語りかけるように言った。
「時は来ている。時は今だ。さあ、出発しよう! 平和の新航路を開く、広宣流布の大航海に」
真っ赤な夕日が、微笑んでいるように、伸一には思えた。