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日蓮大聖人・池田大作

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第9巻 「光彩」 光彩

小説「新・人間革命」

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49  光彩(49)
 山本伸一の一行は、ノルウェーのあとは、デンマークのコペンハーゲンに一泊し、ここでも建築物の視察などをすませ、午後六時半、空路、帰国の途についたのである。
 人を励まし、勇気づけ、使命の種子を芽吹かせる作業は、地味であり、多大な労力を必要とする。
 皆、なかなか、その尊き意義に気づかない。
 たとえ、気づいたとしても、労作業ゆえに、回避しようとする。
 だが、どこまでも、一個の人間を見つめ、人間を信じ、人間の光彩を引き出すことからしか、人類の平和の夜明けは始まらないというのが、伸一の不動の信念であった。
 機内は、食事が終わって間もなく、明かりが消された。眠りにつく人も多かった。
 伸一は、一人、思索のひと時を過ごした。
 ――結成の決まった公明党をどうするか、この年の総仕上げをどうするかなど、彼の頭は、目まぐるしく回転していた。
 しばらくすると、機内放送が、オーロラ(極光)が見えると伝えた。
 伸一の隣の席にいた正木永安が、後ろに座っていた白谷邦男に語りかけた。
 「白谷さん、オーロラが見えますよ」
 しかし、白谷は、眠っているようであった。
 「白谷さん、起きた方がいいですよ。こんな機会は、滅多にありませんよ」
 起こそうとする正木を、伸一は笑いながら制した。
 「寝かしておいてあげなさい。疲れているんだよ」
 それから、伸一は、窓の外を眺めた。彼は、思わず息をのんだ。
 見事なオーロラであった。暗闇のなかに雲海が広がり、その上に、白いベールに似た美しい光が、波のようにうねっていた。
 じっと、目を凝らしていると、その光は、黄色みを帯び、また、青みがかっても見えた。
 きらめく星々が、ベールにちりばめられた、ダイヤモンドのようである。
 オーロラの妙なる光は、刻々と変化していく。それは大宇宙の詩を思わせた。
 伸一は、思った。
 ――かくも美しく、オーロラは輝く。宇宙は、こんなにも輝きに満ちている。小宇宙である人間もまた、本来、まばゆい光に満ちているはずである。
 その人間の光彩をめざして、人間のなかへ、生命のなかへ、私は励ましの旅を、断固として続けよう。
 人類の闇を開くために、輝ける人間の勝利の時代を開くために――。
 (この章終わり)

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