Nichiren・Ikeda
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43 萌芽(43)
一夜が明けて一月十五日は、山本伸一がヨーロッパに発つ日であった。
伸一は、午前七時三十分に、春山富夫の運転する車で、空港に向かった。
ヨーロッパに行くのは、伸一と十条潔、それに正木永安の三人で、ほかのメンバーは二手に分かれ、アメリカ各地を回って、会員の指導にあたることになっていたのである。
空港には、八時過ぎに着いた。
伸一は、出発までの間、見送りに来てくれた十数人のメンバーとロビーで懇談した。
清原かつが言った。
「ハワイは夏で暑かったし、ロサンゼルスは春の陽気、そして、ニューヨークは真冬でこの寒さ……。
日本を出発して、まだ一週間ぐらいしかたっていないのに、一年間もたったような気がするわ」
それを聞くと、伸一は笑いながら言った。
「清原さん、ニューヨークにも春が来ていたよ。妙法の太陽に照らされて、たくさんの地涌の若芽が育っていたじゃないか。
また、一週間で、春から冬まで体験できたというのは、それだけ世界が狭くなったということだよ。
これからも、ますます交通手段は発達し、一日もあれば、世界中、どこへでも行けるようになる。しかし、時間の溝は埋まっても、社会体制の溝、国家の溝が埋まらなければ、人間は交流することはできない。
アメリカとソ連が、その最たるものだ」
「先生、次はアメリカには、いつ、おいでいただけるのでしょうか」
一人の婦人が尋ねた。
「また、すぐに来ます。実は来月、ワシントンでケネディ大統領と会うようになると思います。ある筋を通して、私に会いたいという連絡があったのです。
あの″キューバ危機″のような危険な事態を、再び引き起こさないためにも、私は会って話し合おうと思っている。
体制の溝、国家の溝といっても、結局は、人間の心の溝から、すべては始まっている。だから、その人間の心の溝に、私は橋を架けたいんだ。
こんなに小さな地球に住む人間同士が、争い合っていることほど、愚かなことはない……」
メンバーは、伸一がケネディと会見する予定であることを聞いて驚きはしたものの、彼が何を成そうとしているのかは、想像もつかなかった。
この時、伸一の胸中には、燦然と光り輝く、世界を結ぶ友情と平和の金の橋が、幾重にも、描かれていたのである。
(この章終わり)