Nichiren・Ikeda
Search & Study
34 宝土(34)
やがて、雨は止み、雲間から差す太陽の光線がまぶしかった。
遺跡を眺めながら、吉川雄助が言った。
「本で読んだのですが、このメソポタミア一帯の遺跡は、長い間、土砂に埋もれ、現地の人びとは、どこも皆、ただの丘だと思っていたようなんですね」
山本伸一は頷いた。
「そうなんだよ。
ところが、十九世紀になって、ヨーロッパの探検家や研究家たちがやって来て、丘の上に立ち、ここに宮殿が眠っている、と叫ぶんだ。
彼らの話を聞いても、土地の人は半信半疑であったに違いない。しかし、実際に掘ってみると、その話の通り、城壁や門が出てきて、宮殿が現れる。
メソポタミアの遺跡の発掘は次々と進められ、やがて、このバビロンの遺跡も掘り起こされる。″失われた文明″が、現代に呼び覚まされたわけだ」
「遺跡の発掘には、ロマンがありますね」
黒木昭が目を輝かせて語ると、伸一が言った。
「確かに、過去の文明の発掘にも胸躍るものがあるが、今、私たちがやろうとしていることの方が、もっと大きなロマンだよ。
広宣流布というのは、人間の生命の大地に眠っている″智慧の宝″″善の力″を発掘し、平和と幸福の花開く、新しい未来の文明をつくることだ。これは、誰人も成し得なかった未聞の大作業なのだから。
黒木君、新しき歴史を創造する、この大理想に向かって、限りある人生を、ともに走り抜いていこうよ」
太陽の光を浴びて、雨上がりのバビロンの廃墟は、黄金に染まっていた。
伸一は思った。
――この太陽は、バビロンの栄枯盛衰を、じっと見続けてきた。悠久の太陽の輝きに比べ、人の世は、いかに空しく、はかないものであろうか。
どんなに高度な文明も、人間が戦争という野蛮と決別しなければ、やがて、また滅びゆくに違いない。この″人類の宿命″ともいうべき、殺戮と流転の歴史の闇はあまりにも深い。
しかし、生命の大法たる仏法の太陽が昇れば、その闇は払われ、世界は「黄金の宝土」となって、永遠に輝いていくことであろう。そこに、わが創価学会の使命もある。
永劫の太陽の輝きも一瞬一瞬の燃焼の連続である。使命に生きるとは、瞬間瞬間、わが命を燃え上がらせ、行動することだ。その絶え間なき完全燃焼が発する熱きヒューマニズムの光彩が、永遠なる平和の朝を開いていくからだ――。
(この章終わり)