Nichiren・Ikeda
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38 獅子(38)
部屋には、厳粛な空気が流れていた。
会長山本伸一の無罪判決の喜びに酔っていた幹部たちは、彼の話に、目の覚める思いがした。
伸一は、更に、力を込めて語っていった。
「そうした弾圧というものは、競い起こる時には、一斉に、集中砲火のように起こるものです。
しかし、私は何ものも恐れません。大聖人は大迫害のなか、『世間の失一分もなし』と断言なされたが、私も悪いことなど、何もしていないからです。だから、権力は、謀略をめぐらし、無実の罪を着せようとする。
私は、権力の魔性とは徹底抗戦します。『いまだこりず候』です。民衆の、人間の勝利のための人権闘争です」
それは、権力の鉄鎖を断ち切った王者の獅子吼を思わせた。彼の目には、不屈の決意がみなぎっていた。
創価学会の歩みは、常に権力の魔性との闘争であり、それが初代会長の牧口常三郎以来、学会を貫く大精神である。
日本の宗教の多くが、こぞって権力を恐れ、権力の前に膝を屈してきたのに対して、学会は民衆の幸福、人間の勝利のために、敢然と正義の旗を掲げた。
それゆえに、初代会長は獄中で、尊き殉教の生涯を終えた。人権の基をなす信教の自由を貫いたがゆえである。
また、それゆえに、学会には、常に弾圧の嵐が吹き荒れた。しかし、そこにこそ、人間のための真実の宗教の、創価学会の進むべき誉れの大道がある。
御聖訓には「師子王は百獣にをぢず・師子の子・又かくのごとし」と。
広宣流布とは、「獅子の道」である。何ものをも恐れぬ、「勇気の人」「正義の人」「信念の人」でなければ、広布の峰を登攀することはできない。
そして、「獅子の道」はまた、師の心をわが心とする、弟子のみが走破し得る「師子の道」でもある。
伸一は、最後に、皆に言った。
「私たちは獅子だ。嵐のなかを、太陽に向かって進もう!」
彼は、愛する関西の同志に別れを告げて、車で空港に向かった。
権力の魔性の鉄鎖を打ち砕いた若獅子は、自由の大地を蹴って、さっそうと使命の疾走を開始したのだ。
伸一は、車窓の景色に視線を注いだ。空には、雲の切れ間から太陽が、まばゆい光を投げかけ、彼の行く手を照らし出していた。