Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第5巻 「開道」 開道

小説「新・人間革命」

前後
37  開道(37)
 滑走路は、まだ濃い霧に覆われていた。飛行機が飛び立つ様子はなかった。
 川崎鋭治らが空港の係員に、何度も出発の見通しを尋ねていたが、「わからない」との答えが返ってくるばかりであった。
 皆、次第にイライラし始めていた。
 それを感じ取ると、山本伸一は言った。
 「霧の都ロンドンに、霧が出るのは仕方がない。ロンドンに来て、霧も見られないとしたら、かえって寂しいじゃないか。
 それに、今度の旅では、ベルリンで少し雨に降られた以外は、晴天に恵まれてきた。いつも、そんなにうまくいくものではない。大雨もあれば、濃霧もあって当然だ。
 広宣流布の道だって同じだよ。いつ、何が待ち受けているかわからない。順風の日ばかりであるはずがないもの。
 しかし、霧が立ちこめたり、嵐があったり、時には絶体絶命の窮地に陥りながらも、そのなかで戦い、勝っていくから痛快なんだ。
 『日蓮が弟子等は臆病にては叶うべからず』だよ。みんな勇気をもって、すべてを楽しみながら、壮大な広布のドラマを演じていこうよ」
 伸一は悠然としていた。
 「さあ、せっかく時間ができたんだから、少しでも勉強しよう」
 彼は、こう言うと、再び御書を開いた。
 そして、一時間ほど御書を研鑽すると、今度は、絵葉書を取り出し、日本の同志にあてて、次々と激励の一文を書き始めた。待合室は、まさに書斎となり、執務室となった。
 人が無為に過ごす時間というのは、かなり多いに違いない。その時間を有効に生かし、活用することによって、人生に、いかに大きな実りをもたらすか計り知れない。
 空港のアナウンスが、マドリード行の飛行機への搭乗を告げたのは、午後五時近かった。既に六時間余りの遅れである。
 伸一は、見送りに来てくれたシズコ・グラントに丁重に礼を述べ、飛行機へと向かった。搭乗機は、更に待機した後、離陸し、雲のなかを上昇していった。
 しばらくして、伸一は、窓の外を見た。満天の星である。
 その星々のなかに、恩師戸田城聖の顔が浮かんだ。
 ″先生は、私の旅を、じっと見守ってくださっている。日々、新しい歴史のページを開き続けよう″
 伸一は、いささか疲れを感じていたが、戸田を思うと、胸には、泉のように闘志がわくのであった。

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