Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第3巻 「月氏」 月氏

小説「新・人間革命」

前後
40  月氏(40)
 日達上人の「願文」の朗読が続いた。
 「茲に於て上行の再誕宗祖日蓮大聖人 本地は久遠元初自受用身 本因下種の本仏として末法日本国に出現し給ひ 三秘の大法を以て普く一切の衆生を利益し給ふ
 是等の仔細則ち此の三大秘法抄に顕然なり 然らば本因下種の仏法閻浮に流るべきこと必定なりと云ふべし……」
 「願文」は、あの「諫暁八幡抄」の仏法西還を予言した御文をあげ、次のように結ばれていた。
 「……この地月氏国印度に到り 東洋広布の魁をなせり 門葉緇素の感激之に過ぐるものあらず
 願くは本仏日蓮大聖人 我等が微意を哀愍せられ 一閻浮提広宣流布の大願を成就なさしめ給はんことを
 一九六一年 日本国昭和三十六年二月四日……」
 再び読経に移り、自我偈を読誦し、題目に入った。
 月氏の天地に、朗々たる唱題の声が響き渡った。
 山本伸一は、東洋の民衆の平和と幸福を誓い念じながら、深い祈りを捧げた。
 埋納の儀式は、やがて、滞りなく終わった。
 その時、儀式を見ていた一人の見物人が、伸一たちの方に、静かに歩み寄って来た。チュパと呼ばれるチベットの民族衣装を身にまとい、頭にターバンに似た布を巻いた老人であった。
 老人は、てのひらに花びらを捧げ持ち、一行の前まで来ると、深く頭を垂れ、それを大地に散らし、手を合わせた。予期せぬ散華の儀式となったのである。
 今ここに、仏法西還の先駆けの金字塔が打ち立てられた。
 伸一は、戸田城聖を思い浮かべた。彼の胸には、恩師のあの和歌がこだましていた。
  雲の井に
    月こそ見んと
       願いてし
  アジアの民に
     日をぞ送らん
 この歌さながらに、空には太陽が輝き、そびえ立つ大塔を照らし出していた。
 彼は、恩師への東洋広布の誓願を果たす、第一歩を踏み出したのである。
 アジアに広宣流布という真実の幸福と平和が訪れ、埋納した品々を掘り出す日がいつになるのかは、伸一にも測りかねた。
 しかし、それはひとえに彼の双肩にかかっていた。
 ″私はやる。断じてやる。私が道半ばに倒れるならば、わが分身たる青年に託す。出でよ! 幾万、幾十万の山本伸一よ″
 月氏の太陽を仰ぎながら彼は心で叫んだ。

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