Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第3巻 「仏法西還」 仏法西還

小説「新・人間革命」

前後
36  仏法西還(36)
 香港島の見学を終えた一行は、昼食をすませ、午後一時過ぎに九竜(カオルン)にある啓徳(カイタック)空港にやって来た。
 空港には、十数人のメンバーが見送りに来ていた。山本伸一は、皆と一緒に記念撮影をした。
 彼は、「皆地涌の菩薩の出現に非ずんば唱へがたき題目なり」との御聖訓を思い起こしていた。
 ″香港の地にも、今こうして、地涌の菩薩が出現し、地区を結成することができた″
 伸一は、東洋広布を叫び続けた戸田城聖が、この姿を見たら、どれほど喜ぶだろうかと思った。
 彼はメンバーに言った。
 「まだ、香港にいるのは十数人の同志に過ぎない。しかし、二、三十年もすれば、何万人もの同志が誕生するはずです。皆さんが、その歴史をつくるのです。
 一生は夢のようなものです。一瞬にして消えてしまう、一滴の露のように、はかないものかもしれない。しかし、その一滴の水も、集まれば川となって大地を潤すことができる。
 どうせ同じ一生なら、広宣流布という最高の使命に生き抜き、わが人生を、そして、社会を潤し、永遠の幸福の楽園を築いていこうではありませんか。
 アメリカの同志も立ち上がりました。ブラジルの同志も立ち上がりました。今度は、香港の皆さんが、東洋の先駆けとして立ち上がる番です。私と一緒に戦いましょう!」
 伸一は、搭乗間際まで、力の限り、メンバーを励ました。信心の経験豊かな、柱と頼む幹部がいるわけでもない。明日からは、またメンバーだけで、互いに励まし合いながら、新たな活動を築き上げていかねばならない。それだけに、伸一は、一人一人の胸に深く、信仰の不動な楔を打ち込もうとしていたのである。
 搭乗の時刻になった。
 「では、また、帰りにお会いしましょう」
 彼は手を振り、微笑を残して、ゲートへと急いだ。
 やがて、飛行機は飛び立った。飛する機の窓に、そそり立つ色の岩肌の山が見えた。獅子山(ライオン・ロック)である。
 今、香港の天地に、獅子の子らが目覚め、立った。だが、その力は、まだ、あまりにも小さかった。
 しかし、いつの日か香港は、新しき東洋の世紀を開く広布の大獅子となることを、伸一は確信することができた。希望に胸の鼓動を高鳴らせながら、彼の仏法西還の旅は続いた。

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