Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第2巻 「民衆の旗」 民衆の旗

小説「新・人間革命」

前後
35  民衆の旗(35)
 夜更けて、山本伸一は、峯子とともに、再び仏壇の前に座った。
 静寂な室内に、二人の唱題の声が響いた。
 彼が、第三代会長に就任し、創価の新生の歴史を開いた「前進の年」は、間もなく終わろうとしている。
 思えば、この一年は、彼の人生を大きく変えた激動の年であった。
 あの五月三日以来、彼は片時の休みもなく、ひたぶるに走り続けてきた。そして、学会は大いなる飛を遂げた。
 一年前の学会の総世帯は約百三十万であり、四月末の段階でも、まだ、百四十万余に過ぎなかった。しかし、それが今、会長就任八カ月で、百七十万世帯を上回るまでになった。
 また、支部も四月末には六十一支部だったが、百二十四支部となり、海外にも支部が誕生した。学会は、見事に新しき広宣流布の大空に飛び立ったのである。伸一の緒戦は、明確に大勝利を収めたのである。
 彼は、この一年を振り返って、いささかも悔いはなかった。自分らしく、使命を果たすべく、まっしぐらに突き進んで来た。恩師にも、胸を張って、報告することができる一年であると思った。
 疲労のゆえか、しばしば発熱を繰り返しはしたが、今、五体には満々たるエネルギーがあふれていた。
 しかし、この勝利は、広宣流布の長い旅路を思えば、まだ、ようやく飛行機が離陸した状態にすぎない。安定飛行に入るには、来年は更に高度を上げ、全速力で上昇していくことになる。
 伸一の胸には、戸田城聖から託された構想の実現のために、新しき年になすべき課題が次々と浮かんだ。
 引き続き、支部結成大会を中心に全国各地を回り、指導に全力を注がなくてはならない。また、来年は、初のアジア、ヨーロッパ訪問の第一歩を印す、更に新しき開拓の一年となろう。
 広宣流布の戦いとは、間断なき飛だ。
 外は、冬の夜の闇に包まれていたが、唱題を続ける彼の胸には、まばゆい「躍進の年」の太陽が輝いていた。その光は、澄み渡る大空に七彩の虹を架け、洋々たる広布の大海原を照らし出している。
 ″先生! 私は戦います。「民衆の旗」を掲げ、狭い日本だけでなく、世界を舞台にして″
 唱題の声に、一段と力がこもった。
 彼は、勝利を誓い、胸の鼓動を高鳴らせながら、決戦の第二幕への飛の朝を待った。

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