Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第2巻 「勇舞」 勇舞

小説「新・人間革命」

前後
46  勇舞(46)
 牧口常三郎が逮捕された時、三男の蓉三は、徴兵され、中国にいた。牧口は、蓉三には自分の逮捕を知らせぬよう家族に指示した。そして、牧口逝去の二カ月半前の八月三十一日、蓉三は戦病死している。父・常三郎の逮捕を知らぬままの死であった。
 孫の蓉子は、四歳で父と祖父を亡くしたのである。山本伸一は、その彼女が、結婚することになったという報告を聞いていた。
 伸一は言葉をついだ。
 「なお、牧口先生のお孫さんである蓉子さんが、明後日、結婚式を挙げる運びになっております。最も先生が愛情を注がれた、血の通った方でございます。
 本日は清原婦人部長の指揮で、皆で『黎明の歌』を歌って、蓉子さんの前途を祝福したいと思います」
 清原が立つと、伸一は蓉子にも立つように促した。清原は「黎明の歌」の冒頭の一節を歌い始めた。
 「ああ若き血は 燃えたぎる」
 続いて、皆が唱和した。
 この歌は学会の青年たちに愛唱されていた歌で、恩師の心を胸に、日本、世界の広宣流布に馳せる若人の心意気を歌ったものだ。
 清原の横に立つ、まだ少女の面影を残す蓉子のに涙が光った。
 伸一が、「黎明の歌」の合唱を提案したのは、蓉子に牧口の孫娘として、その遺志を受け継ぎ、学会員の誇りを胸に、生涯を広宣流布に生き抜いてほしかったからである。
 孫娘の祝福の場となった牧口の法要は、さわやかな感動のなかに幕を閉じた。
 伸一は、この日のあいさつでは、多くを語らなかったが、彼の胸には、新たな誓いの火が燃えていた。
 それは、先師牧口の遺志である広宣流布を成就するためにも、まず三百万世帯を達成することであった。
 また、現代に人類の救済の光を投じた牧口を、永遠に世界に顕彰しゆくことであった。特に、牧口が日も当たらぬ獄舎で、寒さにさいなまれながら秋霜の季節に逝去したことを思うと、風光明媚な温暖の地に、彼の遺徳を称える記念の園を開設したいと思った。更にいつの日か、牧口の名を冠した学会の中心となる会館を建設しようと決意した。
 そして、牧口の創価教育を実証する総合的な教育機関の、一日も早い開設を深く心に期したのである。
 法要を終えて、伸一が外に出ると、晩秋の夜風は冷たかった。彼は、火柱のごとく燃え盛る、先師への誓いを胸に、木枯らしの道をさっそうと歩き始めた。

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