Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第2巻 「先駆」 先駆

小説「新・人間革命」

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39  先駆(39)
 今、戸田城聖の起こした平和の大潮流は、慟哭の島・沖縄にも波の花となって広がり、友の歓喜は金波となり、希望は銀波となったのである。
 山本伸一は、その恩師の偉業を永遠に伝え残すために、かねてから構想していた、戸田の伝記ともいうべき小説を、早く手掛けねばならないと思った。
 しかし、彼には、その前に成さねばならぬ誓いがあった。戸田の遺言となった三百万世帯の達成である。伸一は、それを恩師の七回忌までに見事に成就し、その勝利の報告をもって、恩師の伝記小説に着手しようとしていた。
 戸田は「行動の人」であった。ゆえに弟子としてその伝記を書くには、広宣流布の戦いを起こし、世界平和への不動の礎を築き上げずしては、恩師の精神を伝え切ることなどできないと彼は考えていた。文は人である。文は境涯の投影にほかならないからだ。
 伸一は、恩師の七回忌を大勝利で飾り、やがて、その原稿の筆を起こすのは、この沖縄の天地が最もふさわしいのではないかと、ふと思った。
 彼の周りに、見学を終えた友が集まって来た。
 伸一は語りかけた。
 「かつて、尚泰久王は、琉球を世界の懸け橋とし、『万国津梁の鐘』を作り、首里城の正殿に掛けた。沖縄には、平和の魂がある。その平和の魂をもって、世界の懸け橋を築く先駆けとなっていくのが、みんなの使命だよ」
 高見福安が答えた。
 「必ずそういたします。沖縄はアメリカの統治下にあるので、海外に行く手続きは本土より簡単なため、世界に羽ばたこうとしている人がたくさんいます。また、基地に働くアメリカ人で、信心する人も増えております」
 「そうか。そこからまた広がっていくね。沖縄は広宣流布の″要石″だ。この美しき天地を、永遠の平和の要塞にしていこう。
 仏法には三変土田という原理がある。そこに生きる人の境涯が変われば、国土は変わる。最も悲惨な戦場となったこの沖縄を、最も幸福な社会へと転じていくのが私たちの戦いだ。やろうよ、力を合わせて」
 「はい!」
 決意を込めた友の声が、潮騒のなかに響いた。
 伸一は、ニッコリと頷くと、彼方を仰いだ。
 ここに、新しい沖縄の、輝く未来への歴史のページが開かれたのである。
 それは、″汝自身″の使命を自覚した人間による、民衆のための平和と文化を創りゆく戦いの始まりであった。
 彼は、沖縄の天地に、生命の世紀の太陽が昇るのを見る思いであった。

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