Nichiren・Ikeda
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33 新世界(33)
「シパング」に魅せられたコロンブスが、サンタ・マリア号、ニーニャ号、ピンタ号の三隻の帆船を連ね、スペインのパロスの港を出たのは、一四九二年八月三日の早朝であった。
カナリア諸島を経由し、大西洋を突き進むこと七十一日、十月十二日に彼はワットリング島を見つけ、上陸した。
大聖人の大御本尊の建立から二百十三年後の同じ日である。山本伸一は、そこに何か不思議な因縁を感じた。
コロンブスが「サンサルバドル(聖なる救世主)」と名づけたその島は、彼が目指した「シパング」でも東洋でもなかった。そこは西洋人にとって、未知の新世界アメリカであった。
しかし、これが、世界の歴史を画する、大航海時代の新たな一ページを開いたのである。
コロンブスの到達の日から、今、四百数十年の歳月が流れようとしている。
彼の航海は黄金を求め、植民地を求めての旅であった。一方、アメリカの先住民にとっては、それは侵略にほかならなかった。
しかし、伸一の旅はヒューマニズムの黄金の光を世界にもたらす平和旅である。それは、世界の広宣流布への、大航海時代の幕開けであった。
コロンブス像の前で、伸一たちの一行は記念のカメラに納まった。
記念撮影が終わると、伸一はコロンブス像を見上げながら言った。
「私たちは今、コロンブスと同じように、アメリカに第一歩を印した。
しかし、私たちのなそうとしていることは、コロンブスをはるかにしのぐ大偉業だ。この地球に、崩れざる幸福と永遠の平和という新世界をつくろうとしているのだ。
やがて二十年、五十年、百年とたつにつれて、きょうという日は、必ずや歴史に偉大な意義をとどめる記念日になるだろう……」
皆、厳粛な思いで伸一の言葉を聞いた。
しかし、その言葉の意味を実感するには、まだ長い歳月を待たなければならなかった。
伸一は、海のはるか彼方を、じっと見つめた。
赤い夕日のなかに、髪を風になびかせて立つ、彼のシルエットがくっきりと浮かんだ。
伸一は、しばし動かなかった。彼は、己心の恩師戸田城聖に語りかけていた。
「先生! 伸一は、先生のお言葉通り、新世界の広布のを開きました」
降り注ぐ太陽の光を浴びて、彼の顔は、金色に燃え輝いていた。