Nichiren・Ikeda
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35 旭日(35)
ヒロト・ヒラタには、乾いた砂が水を吸い込むような、純粋な求道の息吹があった。
山本伸一は、ヒラタの手を握りながら言った。
「あなたを地区部長に任命したのは私です。あなたが敗れれば、私が敗れたことです。
責任は、すべて私が取ります。力の限り、存分に戦ってください」
「はい! 戦います」
ヒラタは伸一の手を固く握り返した。月明かりのなかで二人の目と目が光った。
ハワイはこれで大丈夫だと、伸一は思った。
月を映した海には、一筋の銀の道が浮かんでいた。
渾身の力を振り絞らずして、人の育成はできない。生命から発する真心と情熱のほとばしりのみが、人間を触発し、人間を育む。
月下の語らいは、深夜まで続けられた。
伸一が部屋に戻ると、同行の幹部も、それぞれハワイのメンバーと懇談していた。
メンバーが帰っていった時には、既に、午前零時を回っていた。
それから、一行は伸一を中心に、懇談のなかで出てきた要望や懸案事項について話し合った。
翌三日は、サンフランシスコへの移動日であった。
一行は、午前七時には、ホテルを出発し、空港に向かった。
ホノルル空港には、二十人近い人たちが見送りにやってきた。
空港に着くと、伸一は待ち時間を利用して、学会本部宛に絵葉書を書いた。
「これからサンフランシスコの指導に回るところです。なにとぞ、留守をよろしくお願いいたします」
彼の頭からは、常に日本のことが離れなかった。
伸一が絵葉書を書いていると、ハワイのメンバーが書籍や色紙を手にして、彼の周りを取り囲んだ。
「先生、何か記念の言葉を書いてください」
伸一はためらったが、メンバーの顔を見ると、なんでもしようと思った。
「みんなが喜んでくれるなら書きましょう」
彼は、一人一人の成長を念じつつ、次々とペンをとった。搭乗間際まで、寸暇を惜しむようにして、激励は続けられた。
伸一たちの乗ったユナイテッド航空九八便が、ホノルル空港を出発したのは、午前九時のことであった。
世界広布の第一ページを開いたハワイ訪問は、わずか三十数時間の滞在に過ぎなかった。
しかし、ここに、人類の歴史に新しい夜明けを告げる、平和の旭日は昇ったのである。