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日蓮大聖人・池田大作

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「永遠の都」と同志愛  

「池田大作講演集」第3巻

前後
1  それは、昭和二十六年の新春のことであった。
 出勤の早い戸田城聖は「お早よう」といって、オーバーをぬいだ。その時、一冊の赤表紙の小型の本を持ち「伸一はいるか、伸一はいるか」と、あたりを見回しながら自分の部屋に入ったのである。
 当時は、まだ戸田城聖は会長になっていない。事業も、学会も最悪の事態であり、まさしく暴風に翻弄された難破船の如くであった。加えて、身体も極度に弱り始めていた。いつ自分が倒れるかも知れない。彼は、事業も学会も暗澹たるなかで苦悩し――自身の意思を、後世に伝えたいと決意していたに違いない。
 「この本を君にあげるよ、読み給え」
 戸田の態度は、いつになく深く静かであった。
 「早速、読ませていただきます」
 伸一は、青年らしい歯切れのよい口調で、礼儀正しくいった。すると、戸田は「君がよかったら、君の仲の良い同志十数名だけに、順番に読ませてあげたらどうだろう」
 伸一は、ちよつと考えて、戸田に答えた。
 「表紙の裏に名前を書いて、一人二日乃至三日で読むよう伝達いたします」
2  この本が、ホオル・ケエンの著「永遠の都」である。
 ……青年革命児ディヴィド・ロッシと一女性のロマンを背景として、理想社会への壮大な革命運動が描かれている。
 熱血の主人公ロッシは、人間共和という結社を作った。そして、時の政治権力と教会権力の両者に挑戦したのである。彼の前途には、幾多の弾圧と、迫害と、困難が待ちうけていた。日日が、嵐の中での闘争であり、前進であった。
 だが、正義感に燃え、信念に生きるロッシは勇敢に戦った。青年らしく敢然として前に進み、戦った。彼には、彼を支える金剛の友情の連帯があったのである。その友の名はブルーノ・ロッコ。生涯にわたり苦楽を共にしてきた仲間であり、無二の親友であった。いわゆる深き同志である。
 ブルーノは、首相ボネリ男爵の陰険極まりない策謀により、裏切りを強要されるのであった。彼は悩みぬいた。しかし、彼は革命に生きる真実の闘士であった。最後の土壇場で、自らの手で、自らに毒薬を盛り「ディヴィド・ロッシ万歳!」と叫び、波乱の人生を散らしたのであった。友を信じ、革命の未来を信じて自殺の道を選んだブルーノ……そのキラキラと輝く堅い友情の絆は、友の生命を救い、革命運動に一層のエネルギーを点火させずにはおかなかった。
 まさに「自分に打ち勝った勝利の声」である。
 犠牲的な、この友の支援と、立ち上がった民衆の支援で、ロッシは遂に暴虐の圧政、ボネリ政権を倒したのである。共和制の樹立が、ここに誕生。ユートピア「永遠の都」ヘ一歩近づいたのである。しかしながら、彼はその門の入り口で立ち止まった。むを得ぬ事情があったにせよ、暴力否定の彼が、ボネリ首相を殺害してしまった罪を恥じて、新社会運営の資格は自分にはないと――いずこともなく去っていくのであった。
3  ちなみに、著者ホオル・ケェンは、英国人であり、チェーシヤー州のランコーンの生まれである。家は貧しい鍛冶屋であった。正規の教育は小学校だけであり、それも中途退学であったという。以降、独学一筋に――キリスト教的社会主義を提唱し、やがてマン島の下院議員を務めたとある。

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