Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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純粋な信仰の強さ  

「池田大作講演集」第3巻

前後
1  昭和二十二年、法華経講義のあった秋の夜、西神田の学会本部でのことである。当時、戸田城聖は、事業に講義にと多忙を極めていた。
 講義終了後、戦前、幹部であったある夫妻が、戸田の前で正座するのであった。粛然。十名ほどの居残っていた人々は、水を打つたように静かになる。入信間もない伸一も、その光景を見守っていた。戸田の前にいる幹部は、戦時中の最高幹部であり、学会弾圧の時、戸田と共に入獄している。いうなれば、苦労知らずに育った、学者風のその幹部は、最後まで耐えきれず、遂に退転したというのである。
 その妻の心情は、わが主義、信念の堅持よりも、ただ夫の帰宅のみを願って盲目になったのであろう――
 「検事さんのいう通りになって、早く帰ってきてください」と、哀願するばかりであった。いかなる理由か、彼は戸田よりも、はるかに早く出獄している。
 夫妻は戸田の前で、深々と頭を下げた。「信仰を裏切ったことは、どうかお許しください。それを思うと苦しくてなりません。これからは、新しい決心で広宣流布のために働きます」
 そうか、そうかというであろうと思っていたが、戸田の言葉は、意表を衝いて厳しかった。「信仰することは自由である。しかし、これからの学会には、更に激しい弾圧の嵐があろう。その時になって、また裏切り、臆病な行動をするのであれば、幹部として学会の邪魔になる」
 二人は、厳父のその指導が、楔になったのであろう。細々ながら信仰を全うしている。
2  ある財産家が、何かの理由で入信した。恰幅もよく、その地元社会では、かなり有名な人であったようだ。純粋な信仰の眼から見れば、何か不純なものを感ずるところがあった。彼は折伏もよくした。だが、その魂胆が、所詮、自分の配下をつくり、勢力を増すことであることが見えすいてきた。
 ある日、ある時。事業が苦難であった戸田のもとへ、友人のような姿でやってきた。雑談の中で、彼は遂に本音を吐いたのである。
 「戸田先生も、今、大変なようだから、少しぐらいなら応援してもよい。貧乏人と病人の多い学会では、なかなか布教もできまい。私を幹部にすれば、世間の見方も変わってくる」
 戸田は即座にいいきった。
 「貧乏人と病人を救うのが、本当の宗教だ。学会は庶民の味方である。学会は、いかにののしられ、嘲笑されようとも、その人達のために戦う。仏の目から見るならば、最高に崇高なことなのである。君のように、ちょっとばかり資産家だからといって有名を鼻にかけたり、見栄を張ったりする者の応援もいらぬし、学会の幹部になっては絶対に困る」
3  昭和二十八年の秋のことであった。信濃町の学会本部の第一応接室にて、戸田城聖は、とある初老の人と対面していた。戸田に呼ばれて、若き伸一もに腰をかけた。戦時中、戸田城聖を取り調べた元司直である。
 彼は、最近入信したという。戸田に馴れなれしく、笑いながら、入信の経緯を語っていた。戸田は、淡々とあいづちを打っている。やがて彼は「戸田さん、過去は過去ですよ。何か私にできることがあればしてあげましょう」いまだ、傲慢な態度である。戸田は、毅然としていいきった。「必要ない。時代が変わったからといって、君に頼むものは学会には断じてない。私にへつらっていれば、私がいい気になると思ったら大間違いだ。学会は純粋な信仰で、一切を切り開いてゆく」
 伸一は彼を玄関まで、礼儀深く送つていった。

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