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日蓮大聖人・池田大作

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挿し画家と雑革  

「池田大作講演集」第3巻

前後
1  小説「人間革命」の挿し絵は、三好悌吉氏である。七年もの長い間、お世話になる。昨年、還暦を迎えられたと承る。
 氏に、挿し絵をお願いするまでの、経緯はこうであった。挿し絵は、編集部の責任。その担当は、東北大出身のK君。理智的な好青年である。彼は、三十九年十月初旬から、着々と準備を進めていたようだ。数十冊に及ぶ、雑誌、単行本等から、二十人の画家を選んだという。その代表的な挿し絵を、一枚一枚、丹念に切り抜いて、スクラップを作成したらしい。もちろん、三芳氏は第一候補。
 一覧表を持って、当時の編集長のA君に、進言したようだ。一か月間の、苦労の結晶。彼はいった。「タッチが現代的で、絵も明るい。あらゆるものを、見事、書きこなしております。この人だったら、全て間違いありません」と、強く主張。早速、A編集長の訪問となり、内諾を得て、決定した。最近、私が、知つたことである。
 以来、あの親しみのある、独特のタッチの三芳画伯の登場となった次第である。若きK君は、その後、転勤して、今は児童雑誌の編集長となって、活躍。感謝深甚。
 ある日、私はただ一人、三芳宅を訪問した。杉並の、いまだ武蔵野のお面影多い、閑静な住宅地。画家と作家の対面。応接間で、小一時間懇談していただく。茶菓子をお持ち下さった、見るからに品のよい奥さまは、笑いながら、「会長さんて、どんな方かと、思っていたのですよ」と。
 画伯も、私を訪ねてこられた。その後に、記念として、五十号の″タネ売りの女と題する、油絵を贈って下さった。欧州旅行の作品という。北イタリアあたりの街角か。夫婦と思われる男女が、トウモロコシの種を売っている、光景を描いたもの。更に一枚。″パリの下町”というスケッチ。六号の、紫色の色彩が鮮かな、小ぢんまりした絵。いかにも、パリの裏町の雰囲気が漂う。今も、東京文化会館の私の控室に、飾らせていただく。
 氏は、特に、研究熱心な人である。戸田先生の目黒の家にも、二回にわたり、スケッチに行かれた。大聖人御聖誕の地・小湊、嵩が森の清澄寺はもちろん、西神田の旧学会本部、総本山、戸田城聖の大阪での足跡など、丹念ににカメラをたずさえ、大事な所は、全部スケッチに収められたという。ご健筆を、唯々祈る。
 画伯は、昨年の個展以来、”雑草”をテーマに、描き続けていると聞く。これは、画壇でも、大変珍しいと、高く評価されているようだ。氏は、口ぐせのようにいう。「残りの人生は、雑草を描ききっていきたい」と。物静かな口調にも、堅い、信念を秘めておられる。雑草は、踏まれても、踏まれても、更に芽を出していく。生命力である。庶民にも似て。私も、雑草という言葉が、とても好きだ。雑草という詩を、書いたことがある。
 少年の頃、何かで読んだ一句に、
  踏まれても 踏まれても なお咲く
    タンポポの 笑顔かな
 というのがあった。
 雑草の上に寝ころんで、青き天を、心ゆくまで仰ぎたい。
  霜降りて 雑草自若の 朝の道

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