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日蓮大聖人・池田大作

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1 古今のロマン――青春の日の読書  

「希望の選択」ディビッド・クリーガー(池田大作全集第110巻)

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1  池田 先日(一九九九年三月)は、遠路はるばる創価学園の卒業式にお越しくださり、本当にありがとうございました。世界市民の模範として、平和運動の第一線で活躍されるクリーガー所長のスピーチに、学園生たちは大きな啓発を受けたようです。所長から卒業生に贈られた「君は世界を変えていく!」とのはなむけの詩にも、生徒は心から感動しておりました。
 私も卒業式で、生徒たちに、ソクラテスとプラトンの話をしました。私はよく、若き日の読書を通して学んだ偉人・哲人の生き方を、青年に語るようにしています。
 クリーガー 卒業生に語られる池田会長の一言一言を聞いていて、会長が若い世代に、いかに慈愛を注いでおられるか――。私にはよくわかりました。
 池田 よき文学は、私の人生を豊かにしてくれました。よき書は、読んだ分だけ自分の世界を広げてくれる。読書によって、会ったことのない古今東西の人間と対話し、いまだ行ったことのない土地へも旅することができる。「家に書物なきは、人に魂なきがごとし」と言った哲人(キケロ)がいましたが、まさに至言であると思います。
 私の青春時代は、第二次世界大戦が終わったばかりで、日本中の人が、生活は苦しく、精神的にもよりどころを失っていた時でした。それまでの価値観が崩壊した、一種の精神的空白の時代にあって、私は、人生の歩むべき道を古今東西の書に求めました。
 本は、私のこよなき友人でした。古本屋に行っては、苦しい生活のなかから本を買い求め、むさぼるように読んだものです。ゲーテ、ダンテ、ユゴー、ドストエフスキー、トルストイらの本は、何度も繰り返し読みました。また、近所の青年たちと読書会を開き、研鑚と討論の場としたことも、懐かしい思い出です。それらはすべて、現在、世界の多くの識者と語りあったり、また講演や原稿を執筆するにあたっての力となっています。
 クリーガー 読書は世界を広げるというのは、私も同感です。読書はその人の視野の地平を広げる道です。書物を読むことによって、人は千年、二千年、あるいはもっと前に生きていた人々の生活にふれ、人類のあるべき未来に思いをいたすこともできます。
 また書物を読むことによって、見知らぬ文化の人々の物の見方を学ぶことができます。ある意味で読書は、「時空を超えた対話」を進める可能性をつくり出します。
2  映像文化の功罪
 池田 私の師・戸田会長は、青年たちに「心に読書と思索の暇をつくれ」と呼びかけ、
 読書することの大切さを教えてくれました。「今、何の本を読んでいるか」と、よく聞かれたものです。私も機会あるごとに、青年たちに良書を読むことを勧めています。青年時代の読書は精神を深め、人格形成の豊かな滋養となるからです。
 クリーガー 池田会長には幸運にも、お若いころ、何を読むかについて、「重要な文学に親しむように」と指導される師がおられました。そういうことは今日の若い人たちには、まずありません。
 今日の青少年の多くには、読書ではなくて、電子化された娯楽が普及しています。これはいろいろな点で深刻な問題だと思っています。
 一つには、テレビに暴力の場面が余りにも多い。どういうわけか、暴力行為が、娯楽番組の目玉になっているようです。そういうテレビ番組の数々を観て育った子どもたちは、暴力行為をあたりまえのこととして、生活の一部にとり入れるのではないかと、私は危惧しています。
 テレビゲームで遊ぶ子どもたちは、実際、模擬暴力への参加者になっています。これは健全な社会の反映とは思えません。
 池田 今、日本でも若者たちの活字離れが憂慮されています。本を読むよりも映像に親しむ傾向が強くなっています。論理的思考よりも情緒的反応を、理性や悟性よりも感性を優先させる若者が多くなっているのも事実です。外界への対応が、総じて受け身になっているのです。
 そこから懸念されるのは、魂の空洞化です。多くの若者が、何の疑問も思想も持たず、その時その時を楽しく過ごせればよいとする、刹那的な生き方をするようになれば、本人はもちろんのこと、国の将来にとってもきわめて不幸なことです。
 しかも、物質的な豊かさに流され、主体性を損なわれやすいのが、今日の日本の現状です。だからこそ私は、青年に読書と思索の習慣をもってほしいと念願します。
3  読書は想像力を鍛える
 クリーガー 青少年の読書離れという問題のもう一面は、子どもの想像力を制限してしまいかねないということです。テレビでは、想像力は培われません。一方、読書の場合、子どもたちは、頭の中で言葉をイメージに変えねばなりません。
 想像力は人間に"選択の可能性"をあたえます。それは創造性のもっとも根本的な構成要素なのです。読書離れは、そうした創造的な選択の可能性を狭めることになり、個人にとっても社会にとっても不健全なことだと思います。
 池田 確かに現代は、とくにテレビが青少年に大きな影響をあたえていますね。このことは深刻に考えなければならないでしょう。
 私が育った時代はまだテレビがなかったので、今の子どもたちのように、幼いころから情報の氾濫に身を置くという経験は、ありませんでした。情報にしても、知識にしても、それを得る方法の第一は読書でした。子どものころ、わずかな小遣いをためては本を買い、読みふけったものでした。本の数も種類も限られていて、同じ本を何度も読み返したものです。働くようになってからは、それこそ本を手にしない日はありませんでした。振り返ってみれば、それが幸いしたと思います。人生や哲学をめぐって、著者と深い対話を交わすことができ、それが思索する力を鍛えてくれました。
 また、優れた文章表現や印象深い洞察を示す個所などは、暗誦するまでになりました。そして、より高度な内容の書物に挑戦していったものです。
 テレビが青少年にあたえる影響は、こうした知的挑戦の意欲を奪い、情報をあたえられるままに受け取るという、批判精神なき人間を生みだしてしまいかねないことにもなるでしょう。まさに所長の言われたように「創造的な選択の可能性を狭めかねない」のです。
 クリーガー テレビは受け身になって学ぶ装置です。そもそも「テレビジョン」(居ながらにして遠くの様子を観る)という語の定義からして、テレビを観ることは一種の怠惰です。
 人はそれによって情報をあたえられますが、その情報というのが、しばしば非常に皮相で浅薄な種類のものなのです。テレビが視聴者に深く考えさせることは滅多にありません。テレビは、本来の劇的要素の神秘さを世俗的なものにしてきました。現代社会における精神の衰えは、このテレビにまつわる問題や、良き文学が読まれなくなっていることを超えて進んでいると思いますが、これらの要因が現代の病を悪化させていることは事実だと思います。
 池田 おっしゃるとおりです。テレビのもう一面として、所長が指摘された「劇的要素の神秘さを世俗的なものにする」という働きとは逆に、人物や出来事など「世俗的なものを、実際以上のものに祭り上げる」という点も挙げられるでしょう。
 たとえば、テレビに出ることで、その人物が何か特別な人間であるかのように感じさせるといったことです。
 クリーガー そのとおりだと思います。テレビは、実際には、きわめて皮相的な事柄を、
 さも重要なもののように見せかけます。伝達の媒体としてのテレビは、有名人をつくりだし、ただ有名にするためだけに、その知名度の向上を図っているところがあるようです。
 池田 テレビは政治や政治家にも大きな影響をあたえます。ケネディが、ニクソンとの討論会をはじめ、テレビの効果を最大限に生かした政治家であったことは周知のとおりです。
 そこで、政治家にとっては、テレビにどう映るかが大きな関心事となり、テレビをどう使うかは政治戦略の重要な要素になります。ですから、民衆の側でも、テレビによる民衆操作・世論操作の意図を、いかに見抜くかが重要になります。批判精神の衰弱は一歩誤れば、いわゆる"微笑のファシズム"を育てる温床にさえなってしまいかねません。
 クリーガー テレビはまた、電子による植民地主義の手段になっています。このことが、価値観の「ハリウッド化」をまねきました。現実にテレビは、西洋の価値観、ことにアメリカの価値観を全世界に流布する媒体になってきました。アメリカの価値観は、精神的なものに対して物質的なものを重視してきました。しかも、それは、世界各地の古来の価値観、道義的に正しい文化の価値観の一部を衰えさせ、反対に、社会における暴力や疎外感、権力への欲望などを助長してきました。
 総じてみるに、テレビは世界の同質化を助長しています。これも人類の未来にとっては危険なことです。
 池田 おっしゃるとおりです。だからこそ、人間の主体性が大切になってきます。
 インターネットをはじめマルチ・メディアの発達する現代にあって、テレビをなくすことは非現実的ですし、また優れた番組も決して少なくありません。
 大切なことは、テレビのマイナス面に引きずられることなく、また情報の洪水におぼれず、テレビを価値的に生かしていくために、人間が確固たる主体性を確立することです。
 そのためには、やはり読書によって、物を考える力をやしない、精神を鍛えていくことが、いよいよ必要になってくるでしょう。
 クリーガー 会長は今、問題の核心にふれる発言をされたと思います。もし、人間の主体性を真剣に考えるならば、私たちは青少年に、主体的思考を奨励し、促進させるための教育を行わなければなりません。
 読書に話を戻しますが、池田会長は青少年に、とくにどんな作家を推薦されますか。

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