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日蓮大聖人・池田大作

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あとがき  

「美しき獅子の魂」アクシニア・D・ジュロヴァ(池田大作全集第109巻)

前後
1  第三の千年の開幕――明年の二〇〇〇年を、国連は「平和の文化のための国際年」と宣言しました。「平和の文化」とは、異なる文化・文明間の相互の尊重と共存を志向する文化であります。それは、「戦争の文化」への対抗軸をなし、画一化に対する多様性の尊重、暴力による「分断」に対する非暴力と対話による「融合」の文化を意味しております。
 冷戦の終結をはさんで、二十年の長きに及んだ本書の対話が、その結実を見た時、奇しくも、世界が「平和の文化」を希求し始めたことに、私は深い感慨をいだいております。
 とくに、ジュロヴァ博士には、国家の激変と冷戦終結後の今日まで続く、政治経済的、そして精神文化的に厳しい状況を乗り越えながら、つねに対話の続行に、強い意志で全力を注いでいただいたことに、あらためてお礼を申し上げます。
 博士も、対談の中の随所で危惧されているように、近代西洋に発する物質科学文明が、市場経済のグローバル化とともに、地球人類をおおいつくそうとしております。
 この文明のグローバル化の大波が、環境破壊に代表される「地球的問題群」を生み、同時に、“欲望の拡大”と“人間精神の脆弱化”、すなわち、“倫理性の低下”と“暴力性の増大”を引き起こしました。冷戦終結によって、世界規模の核戦争の脅威はうすらいだものの、「核拡散」は進み、暴力と憎悪に染まった「民族紛争」と「テロ」の激化を招いております。
 そして、もっとも憂慮すべきことは、このような“現象群”の基盤に、多彩なる民族文化、多様なる文明の独自性を破壊しゆく「画一化」の大波が、急激に高まっていることであります。しかし、ようやく人類は、数千年の歴史を育んできた幾多の文化・文明の独自性、多様性を尊重し、“共存への道”を志向し始めました。
 本書は、近代科学技術を生んだ西洋文明圏以外の、偉大なる二つの文明圏――一方はスラブ・東方キリスト教文明、他方は東洋・大乗仏教文明――の間の「対話」であります。西欧物質文明とは異なる生命観、宇宙観、人生観を、それぞれつちかってきた「文明」間の対話は、その意味において、「平和の文化」創出への「先駆」的な試みとなったのであります。
 博士と私は、本書において、「平和の文化」創出の基軸に、「人間精神」の変革を置きました。「獅子」のごとく、美しき倫理性に輝き、いかなる苦難にも挑戦しゆく勇敢なるブルガリアの“魂”は、大乗仏教文化の精髄をなす菩薩道にも通底しておりました。
2  この二つの文明圏では、近代西欧の物質主義に対抗し得る道徳性・倫理性が養われてきております。“欲望のコントロール”と利他主義への変革、大宇宙・大自然との調和、異なる文化への「寛容の精神」等が共通項として抽出されました。博士は、とくに、民族存亡の危機をいくども乗り越えて形成してきた、ブルガリア文化の「寛容性」を主張しております。
 本書は、精神の蘇生――「精神革命」を基軸に、それぞれの文化の独自性を生かしながら、欲求追求型の物質文明をも包括しゆく“創造性”と“強靭さ”を持ち、民族と人類の幸福のために貢献する方途を探求する対話となりました。
 二十一世紀に向けて、人類興亡史を飾り、多様な文化の華を咲かせている異「文化・文明」間の、実りある「対話」と「交流」の必要性が、いちだんと加速される時代となってきました。想えば、日本がブルガリアの独立を承認して、両国の交流が開始されてから、本年で八十年を迎えます。
 博士と私の思索が、「文明圏」間の対話への一つの先例となり、同時に、百周年に向けてのブルガリアと日本の、さらなる相互理解と啓発の「糧」となることを希求しております。
  一九九九年十一月三日 池田大作

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