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教育の使命  

「美しき獅子の魂」アクシニア・D・ジュロヴァ(池田大作全集第109巻)

前後
1  ジュロヴァ 創価大学を訪問した折のことですが(一九八二年、九〇年、九七年)、学生や教員の方々と対話したなかで、学生と教員との間に、生き生きとした絆を築こうとの努力がなされているという印象を受けました。
 池田 創価大学は一九七一年に開学し、今年(一九九九年)で二十八年になります。まだ歴史の浅い若い大学ですが、世界に貢献する大学をめざしています。次への飛躍を期して、この五月に三十周年の記念事業の一環として、新本部棟が完成したばかりです。
 ジュロヴァ さらに、貴大学の創立三十周年を称揚する、もう一つの画期的なことがあります。それは、貴大学が、インターネット情報社会という現実を考慮に入れた上で、世界のグローバル化と貴国の独自の文化の保持とのバランスを探求しながら、カリキュラムを展開されようとしているご努力です。
 また、貴大学のカリキュラムに、世界平和をめざすプログラムが組み入れられていることです。こうしたプログラムは、人類の将来の発展にとってきわめて重要なものです。
 これらを通して、私は、創価大学創立の意義、経緯などについて興味を持ちました。この点についてお話しいただければと存じます。
2  池田 「民衆のためにつくす人材」を輩出する大学をつくりたかったのです。建学の精神は、「人間教育の最高学府たれ」「新しき大文化建設の揺籃たれ」「人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ」です。
 創価学会の牧口初代会長は、私の恩師戸田第二代会長に、「将来、私が研究している創価教育学の学校を必ずつくろう。私の代に創立できない時は、戸田君の代でつくるのだ。小学校から大学まで、私の構想する創価教育の学校ができるのだ」と託されたのです。
 戸田先生が私に創価大学の設立構想を語られたのは、一九五〇年の晩秋、ある大学の食堂でのことでした。「大作、創価大学をつくろうな。私の健在なうちにできればいいが、だめかもしれない。その時は大作、頼むよ。世界第一の大学にしようではないか」と。
 現在は幼稚園から小学校、中学校、高校、そして大学まで整えることができました。
 ジュロヴァ 私は、一九八二年に札幌の創価幼稚園を訪問しました。そこで私は、幼い子どもたちが明るく、元気に行動している姿に深い感銘を受けました。
 池田 創価大学の正門と新本部棟の正面には、牧口先生の直筆で「創價大學」の文字がありますが、この文字は牧口先生が残されていた手稿を戸田先生が保管されていたもので、それを私が大切に保存し、かかげたのです。
 創立記念日は、戸田先生の祥月命日の意義をこめて四月二日としました。ともかく、「民衆のためにつくす人になってほしい」「民衆の苦しみを忘れないでほしい」と念願しています。
 ジュロヴァ 歴代の会長の精神、魂がとどめられている、創価大学の理念、目的については、よく分かりました。たいへんにすばらしいことだ、と感動いたしました。
 さて、私は、現代科学技術が進歩し、社会も日々刻々と変化する状況下で、いかにしたら、すべての人間に内在する創造性を発展させていけるのかと、懸念しております。
 九七年の訪日の折、私は民主音楽協会(民音)を訪問しました。そこで私は、同協会が、青少年の育成に技術的に取り組み、そして、創造的な能力の開花のために尽力されていることを確認でき、大いに希望が持てました。
 先生が、民音の文化センターで行っていらっしゃる方法は、私たちにとって非常に参考になるものです。たとえばそこでは、現代の科学技術によって古典音楽が演奏されていました。そのため、古典音楽という文化がきわめて魅力的なものとなっていたのです。文化をたやすく入手できるという点では、インターネットの情報に匹敵するものでしょう。
 こうしたやり方は、文化を忘れずに保持するための一つの方法である、と私は考えます。古典音楽という文化を、現代のダイナミックな時代に組み込ませ、未来に手渡すということです。
3  池田 今度は博士に質問しますが、博士が教鞭をとられているソフィア大学のモットーは何ですか。また、「スラブ・ビザンチン研究所」の理念についてもお話しください。
 ジュロヴァ 九世紀末から十世紀初頭にかけて生きた、学識の人・聖クリメントは、「汝の精神の門と、歩みゆく道を、勤勉をもって開け。書物が汝に、力強い腕を与えることだろう」と記しています。これが、ソフィア大学のモットーの源泉になっています。
 また、私の師匠であるイヴァン・ドゥイチェフ教授の名前を冠した、「スラブ・ビザンチン研究所」の活動については、名称がその活動の範囲を示していると言えます。すなわち、ブルガリアの精神的遺産――東方正教のスラブ・ビザンチン共同体――について調査、研究し、それを保存していくということです。
 人間にそなわった多様な知恵、道徳的純粋性、見解などは、もっとも大きな富と言えます。同研究所で働く私たちは、世界のこうした富、すなわち多様性を失いたくないと望んでいます。そのような理由から、私たちは研究所の仕事を通じて、「国境なき世界」という未来の構築をめざしているのです。
 「国境なき世界」とは、決して伝統的な文化を抹消することを意味するものではありません。私たちは、文化的遺産をそうした世界モデルに組み込むことをめざして、努力しているのです。
 池田 ソフィア大学のモットーといい、「スラブ・ビザンチン研究所」の活動といい、ブルガリアの精神的遺産を基盤にしながら、人類のための尊い貢献をされていることが、よく分かりました。
 ジュロヴァ わが国では第二次世界大戦後、ルネサンス期のように知識を求めて、高等教育や大学教育に対するかつてない関心が高まりました。そのさい、わが国の教育システムが直面した問題は、次のようなものでした。
 一方では産業化の結果、学校レベルでの教育システムの変更が要請されたことであり、他方では新しい教育システムの導入により、十分に訓練された教員が必要とされたことです。
 最近では、すべての人が大学の学位を得たいと思うようになったために、新たな問題が生じています。ご存じのように、ブルガリアでは大学の授業料は無料で、あらゆる人が大学に挑戦し、入学する資格を持っています。
 そのため、入学試験は非常に困難なものになっており、生徒たちにとって肉体的、精神的に大きな試練となっています。受験のために、カリキュラムに大きな負担がかかり、子どもの心身の調和的発達を促進するような、体育や道徳といった教科が見捨てられているのです。

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