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日蓮大聖人・池田大作

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はじめに  

「美しき獅子の魂」アクシニア・D・ジュロヴァ(池田大作全集第109巻)

前後
1  池田 ようこそいらっしゃいました。心から歓迎いたします。政治変革を機に新しい時代を迎えたブルガリアの発展を、心から念願します。そして、祖国の安定と幸福を願うばかりです。
 ジュロヴァ 私は、池田先生と再会することを、ずっと願っておりました。やっと実現しました。うれしくてなりません。(ブルガリアでは、一九八九年十一月に「無血の政権移行」が行われた。再会は、その翌年四月である)
 池田 ブルガリアのシンボルは“獅子(ライオン)”です。今は大変でも“獅子の国”らしく生きぬいてください。また、人間を太陽になぞらえる貴国の民話も多くあります。“太陽”のごとく希望と知恵を輝かせて、繁栄の春へと進んでください。
 「無血の政権移行」が行われたことは、指導者の聡明さと勇気の証明であり、何より高く評価したいと思っています。
 また、人々には喜びをあたえ、自身は苦しみを引き受ける、そういう“根っこ”の存在の指導者がいるからこそ、人々の幸福の開花もあります。その意味で、祖国の未来を思う博士は、人間としての「勝利の旗」を魂にかかげた人です。時代は変わり、人の心はうつろうとも、それらを乗り越えて、私が見つめているのは「人間」です。人間の「魂」です。長い歴史の上から、また永遠性の上から見なければ、本当の「勝者」は分かりません。
 ジュロヴァ 本当に励まされます。お話をうかがって、私は、十世紀後半のブルガリアの修道士コズマの言葉を思い出しました。
 「試練を受けねばならない。試練や困難の時にこそ、民衆や神に祝福される指導者が現れるのだ」。嵐の中で人類のために戦っておられる先生こそ、この言葉どおりの方と思っております。
2  池田 恐縮です。嵐を求め、嵐とともに進んでいくのが真実の指導者であり、人間であると私は決めています。
 貴国の国民作家、イヴァン・ヴァーゾフの代表作『軛の下で』について、ソフィア大学での講演でもふれました。(一九八一年、「東西融合の緑野を求めて」。本全集第1巻収録)
 五百年にわたる他国の圧制。ブルガリアの民衆は立ち上がりました。一八七六年の「四月蜂起」――これを描いたその本には、忘れられない場面が数多くあります。
 その一つに、流刑の地から祖国ブルガリアに戻った主人公の革命家を、次のように描いた個所があります。
 「崇高な心の持主にとって、障害や苦難は力を鍛える恰好の場である。抵抗は彼らを強くし、迫害は彼らをひきつけ、危険は彼らを奮いたたせる。なぜなら、それは闘いであり、いかなる闘いも人を気負い立たせ、高潔にするものであるからだ」「闘いは、人にあっては、自衛のため立ち上がる時雄々しく、それが人類のためである時は神々しい」(松永緑彌訳、恒文社)と。
 苦闘こそが人間を高貴にします。それが人々のための苦しみであれば、なおさらです。安逸のなかに人間性を堕落させている社会よりも、どれほど、お国の方が尊いか分かりません。
 重ねて申し上げますが、私の見方は、徹底して「人間」が基準です。
 ジュロヴァ 私たちの国は、今後、民主主義をもとに新しい建設をしていくことになります。けれども、「民主」の伝統が少ないわが国では、これは容易なことではありません。
 先生は、一・二六「SGIの日」には、毎年、記念提言をされておりますが、一九九〇年の提言の中で、プラトンの言葉を引用されていますね。
 プラトンの民主主義批判にふれながら、民主主義のおちいりがちな危険性と、それをどう乗り越えていくかとの視点が述べられていますが、この点に深い感銘をおぼえました。
 民主制についてプラトンは、“過度の自由は、やがて強力な秩序への従属を生みだす”“「民主」が一転して「専制」へと変わる悲劇が生まれる”との危険性を指摘しています。
 先生は、この指摘をふまえつつ、まずみずからの内面を見つめ、“自律”の力を養うことが、「民主の流れ」を定着させるポイントと論じておられます。「民主」の時代の将来を見すえた、優れた観点だと思います。
3  池田 本当に温かいご理解に感謝するしだいです。提言でも述べましたが、東欧諸国を席巻する民衆パワーは、確かに、すさまじいばかりの「解放」のエネルギーです。それは、長期的な観点から言えば、いかなる権力者も、民意に逆らっては存続できないことを、まざまざと見せつけました。大切なことは、その「解放」のエネルギーを、いかにして「建設」のエネルギーへと転換させていくかでしょうね。
 ジュロヴァ 思えばプラトンは、ブルガリアが位置するバルカン半島で生まれました。また、ヨーロッパが世界にあたえてきたもっとも大きな影響とは、ギリシャに発する民主主義の光ではなかったでしょうか。
 こうしたことを考えるにつけ、私は、ブルガリアがこれから新しい民主主義の伝統を築くにあたって、先生の提言にこめられた思想を大いに紹介していくべきだと思い、その準備を進めていきたいと考えています。
 池田 光栄です。これからも、思うぞんぶんに語りあいましょう。
 ブルガリアの最高峰の学府ソフィア大学で、教授として美術史を教えておられる博士と、ブルガリアと日本の「文化、教育、芸術」等にわたって語りあえることは、私の喜びです。
 その意味で、この対談が、両国間を結ぶ友好交流の一助となることを、強く願っております。
 ジュロヴァ ブルガリアでは日本への関心が、いっそう高まっています。この対談集の出版が、両国の友好をさらに発展させていく契機になればと思います。

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