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後記 「池田大作全集」刊行委員会  

「21世紀への選択」マジッド・テヘラニアン(池田大作全集第108巻)

前後
1  今回で通算八十四冊目となる『池田大作全集』第百八巻は、対談編としては二十三冊目の出版になる。この巻には、二人の指導者識者との語らいを収録しており、一つは南米チリの民主化運動を推進した哲人政治家のエイルウィン元大統領との対談集『太平洋の旭日』(河出書房新社)、いま一つは戸田記念国際平和研究所所長でイラン出身の行動する平和学者マジッドテヘラニアン博士との対談集『二十一世紀への選択』(潮出版社)である。
2  池田SGI会長とエイルウィン大統領との対談集は一九九七年十月、「日本チリ修好通商航海条約」締結百周年の佳節に『太平洋の旭日』と題し出版された。両者の強い信頼関係と友情が結実したものである。
 一九九二年十一月、チリと日本の外交史上、国家元首としては初めて日本政府の公式招待により、エイルウィン大統領が来日。両者は東京の宿舎のホテルで会談した。
 多忙な訪日スケジュールのなかで、両者は百年の知己のごとく和やかに語りあい、それは予定時間を大幅に越えて四十分にもおよんだ。話が大統領のなしとげたチリの劇的な民主化、人間主義の政治のあり方など興味の尽きない展開となったためである。
 同大統領は、その人間的スケールの大きさを表すような、柔らかな物腰と微笑をたたえ、「哲人政治家」と称される。
 チリは元来、民主主義の伝統をもつ国だが、一九七三年から十六年余りの長きにわたり、軍事独裁のピノチェト政権に支配された。多くの人々が不当に逮捕され、冤罪で処刑された人もあとをたたなかった。国民は残虐非道ともいうべき権力の横暴に苦しめられ、暗黒の時代を過ごさざるをえなかった。
 しかしついに、軍事独裁政治に終止符を打ち、民主化の道を開くチャンスが到来する。ピノチェト大統領が、八八年十月、大統領職の任期八年延長の是非を問う国民投票を実施したからである。
 これに対し、エイルウィン氏が中心となり「ノー(否)」をめざす政党連合が結成され、最終的に民意を結集し「ノー」に導く。翌年、十九年ぶりの大統領選でエイルウィン氏が圧勝。チリの民主主義が見事に復活した。氏の優れたリーダーシップが国民を救ったのである。
 このチリの民主化の道は、その後の「ベルリンの壁」崩壊や、チェコの「ビロード革命」に象徴される東欧の民主化とともに、二十世紀の民主化の歴史的流れを決定づける出来事として評価されている。
 SGI会長と同大統領との対話は、さらに九三年二月のSGI会長のチリ初訪問の折に継続された。それは海外歴訪五十カ国目にあたるものであり、恩師戸田城聖第二代会長との世界広宣流布の師弟の誓いを果たす旅でもあった。
 二回目の会見は、首都サンティアゴの大統領府(モネダ宮殿)で行われた。会談は東京での対話を引き継ぎ、文化交流、環境保護、経済成長など未来志向の希望に満ちたものとなる。
 その後、エイルウィン大統領は任期を終えた翌年の九四年に来日され、創価大学(東京八王子市)を訪問する。この滞在中、両者は再会。チリ民主化の秘められたエピソード、人権と文化、さらには環太平洋時代への展望等をテーマに幅広い対話を続けていくことを約しあう。対談集はこうした経緯を経て、やがて往復書簡などで意見を積み重ね出版にいたったものである。
3  対談集は全二十章。チリの民主化への道から始まる。民衆の意志と力を結集し、軍事独裁政権を「紙と鉛筆」(投票)で打倒する。このチリ民主主義の勝利を導いた民衆のパワーを焦点とした部分が前半のハイライトである。
 さらに政治と宗教のあるべき姿に言及し、公共に奉仕する存在としての政治家のあり方が論じられる。
 続いて展開される二十一世紀の人権論、すなわち第三世代の人権、人権と文化論は、民主主義と人権のために戦い続けてきた同大統領の真骨頂を示す部分ともなっている。
 さらに環太平洋時代への期待、冷戦終結後の新たな国際秩序が展望され、非暴力と核廃絶の世界が希求される。青年の可能性に期待を寄せる教育論、環境保護への主張、共生の哲学への言及は、両者の人間主義が「共通」のものであることを実感させるものとなっている。
 「“人間主義的なモラルの力”こそ、今後の世界秩序を考えるうえで、一つの大きな機軸となりゆく」とし、両者は行動する楽観主義者として人類の未来に明るい展望を描く。
 かくして両者の「開かれた心」による対話は、歴史を動かす「民衆」に対する限りない信頼と期待を表すものとなり、読者に勇気と希望をあたえゆくものとなっている。

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