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第十一章 人類共生への「選択」――地球…  

「21世紀への選択」マジッド・テヘラニアン(池田大作全集第108巻)

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1  「人間の価値」をいかに守るか
 池田 戸田記念国際平和研究所が主催した、キプロスでの第二回「ペルシャ湾岸安全保障フォーラム」(二〇〇〇年五月)が成功を収めたそうですね。すばらしいことです。
 テヘラニアン ありがとうございます。第一回の会議は、イラン、イラク、トルコ、サウジアラビアなどの中東諸国をはじめ、アメリカ、イギリス、ロシア、フランス、中国、そして中立的立場の国々など、十七カ国の専門家が参加してトルコのイスタンブールで一九九九年三月に開催しました。NGO(非政府組織)がイニシアチブ(主導権)をとって、この地域の平和構築を試みた最初のものとなりました。二回目のキプロスでの会議とあわせて非常に大きな成果を得ることができたと思います。
 池田 いまだ緊張関係が続くこの湾岸地域において、率直かつ誠実な「対話」が継続されたこと自体、平和創造への確かな一歩であると、私は思います。
 非常に重要な取り組みです。今後もぜひ粘り強く続けていってください。
 テヘラニアン この地域はイランイラク戦争や湾岸戦争が行われたように、緊張感が強く、さまざまな利害が錯綜しています。会議をどのように進めるか、当初、頭を痛めました。
 幸いにも、この地域の永続的平和と経済的安定をめざすという会議の目的を参加者がよく理解し、対話がとてもスムーズに進みました。
 それで最初の会議でも具体論に話がおよび、「湾岸地域における非攻撃的防御の展望」「協力的な共通の地域安全保障」「地域軍縮」「地域協力機構の展望」などのテーマをめぐって、未来を見つめる対話が積極的に交わされました。
 池田 湾岸地域は、世界の平和にとってきわめて大きな影響をあたえますが、日本では地理的に遠いこともあり、どうしても関心が薄くなりがちです。日本に拠点を置く平和研究所が、この地域の平和に積極的な貢献を果たすことは大きな意義があると思います。
 テヘラニアン 湾岸諸国の代表からも「世界の困難な状況を自主的に改善しようとしない日本という国にできた平和研究所が、湾岸問題の解決に貢献しようとイニシアチブをとってくれたことに感謝したい」という声が寄せられました。
 ともかく、NGOが率先して行動を起こす以外にありません。とくに戸田平和研究所の場合、研究プロジェクトの中心に「人間の安全保障」をすえており、軍事的な側面ではなく“人間”をどう守りぬくかという観点から国家の利害を超えた問題の解決をめざしています。
 池田 重大な視点です。人間の価値をどう守りぬくかが、二十一世紀の安全保障を考えるうえでの「ホシ」になるでしょう。
 私はそうした意味から、九五年一月、ハワイの東西センターで「平和と人間のための安全保障」と題し講演いたしました。(本全集第2巻収録)
 二十世紀の教訓をふまえて、人間の「生命の尊厳」に目を向けることの重要性が広く人々の意識のなかで共有されつつあります。仏法者として、これまで私どもが強く主張してきた点ですが、今や時代の大きな流れになってきました。
 そこで、「文明間の対話」をめぐる私たちの語らいの締めくくりとして、現代世界におけるいくつかの趨勢を分析しつつ、二十一世紀文明の基調となるべき方向性について語りあっていきたいと思います。
2  地球一体化がもたらす善悪の両側面
 テヘラニアン 以前にもふれましたが、グローバリゼーションの急速な進行は人々にとって好ましい影響をおよぼすこともあれば、そうでない結果をもたらすこともあります。
 好ましい影響の具体例としては、人権や飢餓、地球の温暖化や環境問題、また地雷や核兵器、生物化学兵器の禁止への取り組みなど、地球的な諸問題に人々が国境を越えて、かつてない共通の意識を高め連帯していることがあげられます。
 しかし一方で、経済の不安定化という好ましからぬ現象も起きています。世界経済の自由化の結果として、各国の企業が、賃金や地代、税金、労働力の高い地域から安い地域へ、政府の規制の厳しい国から緩やかな国へと移転することにより、従来の国内の産業は世界的規模の厳しい競争にさらされることになりました。
 二十一世紀においても最大の課題となるのは、今も先進国と発展途上国との間のギャップが拡大の一途をたどる、いわゆる南北問題だと思います。この問題は対話なくして理解しえませんし、ましてや解決は不可能です。
 池田 たしかに、企業が激しい生存競争を勝ちぬこうと、より利益のあがるほうへ、よりコストのかからないほうへと、国境を越えて移動していく現象は日本でも一九八〇年代以降きわだっています。
 そうしたなかで、先進国の間では国内経済の根幹をなす製造業が国外に進出してしまうという、産業の“空洞化現象”も起こっていますね。
 テヘラニアン ええ。こうした移転によって企業は収益をふやし、その結果、その増収を発展途上国に配分することにもなるのですが、他方で先進国は失業率が高まり、福祉制度を維持することが苦しくなってきています。
 このことが、ひいては外国からの移住者や発展途上国の人々に対する、民族的、宗教的、階級的な対立感情をあおり、外国人の排斥や孤立化をより助長してしまうのです。このように南北問題は国際的なだけでなく、国内の問題でもあるのです。
 現にヨーロッパ諸国ではグローバリゼーションとコンピューター化による企業の資金移動が進んだために、各国は徴税の根拠を失うだけでなく、失業率もEU(ヨーロッパ連合)内の平均で一〇パーセントを超えるまでに悪化しました。
 その結果、社会福祉事業への国家の予算配分が削減されるにつれて社会的な不安が強まり、ヨーロッパとアメリカに新たな右翼運動が台頭するなど、さまざまな政治的危機が生みだされているのです。
 また、一九九七年のアジア通貨危機をはじめとする一連の経済危機の背後には、「ヘッジファンド」と呼ばれる国際的な投機集団の存在が指摘されていますが、今や世界を瞬時に移動する巨額の“マネー”が、一国の基盤さえも揺るがす時代に入ってきました。こうした現象は、人類が初めて経験することです。
 池田 九八年八月のロシア金融危機に続き、九九年の年頭にはブラジルの金融危機が、世界に大きな衝撃をあたえました。一九二九年にニューヨークの株式大暴落が発端となって起きた世界的な「大恐慌」の再来を、危惧する声さえあったほどでした。
 かりに、そういった最悪の事態にまでいたらないにしても、経済的な危機が国内において大きな社会的不安や政治的危機をまねく引き金となることは、これまでの歴史が明確に示しているところです。
 テヘラニアン 「大恐慌」は多くの国々に混乱をもたらし、その政治を極端な方向へと走らせる結果をまねきました。共産主義やファシズムのような全体主義的な運動が台頭するきっかけとなったのです。
 現代人がこの過去の教訓をふまえ、かつての道を走りださないようにと私は念じるのですが、人々が絶望におちいったときは歴史の教訓が忘れ去られるスピードも速いのです。
3  「共生」への新たな経済システムをめざして
 池田 この点をどう克服し、人類が二度と同じ悲劇を繰り返さないためにはどうすればよいのか。
 『ゼロサム社会』の著者としても有名なアメリカの経済学者である、レスターサロー教授とも論じあいましたが、第一に、危機に直面すればするほど、勇気をもって変革を実行する真のリーダーシップが要請されます。
 第二に、やはり政治の暴走を許さない民衆の力を、強めていく以外にないのではないでしょうか。目覚めた民衆の力を結集していくことです。
 テヘラニアン 同感です。そして、現代の資本主義自体のもつ欠陥を厳しい目で見ていく必要がありますね。
 九九年に、スイスのダボスで「世界経済フォーラム」の年次総会が開催されました。総会のテーマは「責任ある地球化――グローバリゼーションの衝撃を管理しながら」でしたが、このテーマが象徴しているように、ルールのないグローバリゼーションはきわめて危険です。
 池田 サロー教授も、その点をたいへん憂慮していました。
 教授は、これまでも資本主義経済の「近視眼的」で「弱肉強食的」な傾向性を繰り返し指摘していますが、世界の市場に一定の規制がなければ、犠牲になるのはいまだ競争力のない国々であり庶民です。
 教授はまた、資本主義が今後も成功を収めていくには、「消費」のイデオロギーから「建設」のイデオロギーへの転換が必要であると訴えています。
 「だれかが得をすれば、だれかが損をする」という経済ではなく、人々がたがいに価値をあたえあい、さらなる価値創造へと進みゆく「共生」の経済システムを人類はめざすべきです。
 そのためには、その土台となる哲学や思想をあらためて問わなければなりません。
 テヘラニアン 貧困や飢えは二十一世紀の最大の課題ですが、現在の経済システムのままでも、社会の中でどう人間を生かすかという観点から発想を転換していけば、必ず解決できるのです。
 池田 冷徹なルールが支配する資本主義経済に、「心」という人間的な要素をどう取り入れるか。今、世界の識者は、その重要性に気づき始めたようです。
 「他人の不幸の上に自分の幸福を築く」という考え方は、あってはならないし、もはやナンセンスです。二十一世紀は、自分だけでなく他人も栄えさせる“自他ともの幸福”を追求していく社会が必要です。そのためには、他人の痛みを自分のものとして感じられる柔らかな心、他者のために尽くしていける心がなければなりません。
 この「開かれた精神」を世界で普遍化させていく必要があります。

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