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第七章 「地球文明」の創出――平和への…  

「21世紀への選択」マジッド・テヘラニアン(池田大作全集第108巻)

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1  文明史観『西洋の没落』と『歴史の研究』
 テヘラニアン 一九九八年十二月、米英両国が、国連による査察の協力拒否に対する制裁としてイラクを爆撃しました。
 この問題は、イラクの姿勢だけを取り上げるのではなく、むしろ長期的な視野から、ペルシャ湾岸地域全体の「共通の安全保障」をどう構築するかに目を向けるべきときだと私は考えています。
 湾岸地域八カ国に、国連安全保障理事会の常任理事国を加えて、じっくりと討議すべきです。
 池田 世界を勝者なき戦争の泥沼へと化する愚を、断じて繰り返してはなりません。そのためにも、緊張緩和をもたらす軍縮の促進、世界的な経済協力体制の確立など、多元的かつ包括的な構想が必要でしょう。
 ぜひ、戸田平和研究所でも力を入れて取り組んでほしいと願っています。
 博士は、九一年初頭の湾岸戦争の折、戦乱を憂えた詩を書かれていますね。それを読んだ当時十六歳の令嬢が、その詩に応えて、返詩を書かれた。美しい父娘の交流です。
 博士は、こうつづられています。
  「戦争は
   われわれの内なる
   悪魔を現出させる(中略)
   (悪魔は)真っ赤な
   毒の舌と
   冷たい怒りの槍を
   激しく動かしながら
   限りない貪欲さと虚栄心で
   人間性のすべてを
   食い物にしようとしている」
2  戸田城聖第二代会長は、一九五七年(昭和三十二年)九月八日、「原水爆禁止宣言」と呼ばれる歴史的なスピーチを行いました。
 「われわれ世界の民衆は、生存の権利をもっております。その権利をおびやかすものは、これ魔ものであり、サタンであり、怪物であります」と。
 博士の詩には、師の叫びと相通じる心があると思います。
 平和研究所の仕事は、人間を幸福の方向へと導くための基盤づくりです。それは地味であるかもしれません。
 しかし、波涛が何度も何度も押し寄せて巌を削っていくように、倦まず弛まず、崇高な目的に挑戦し続ける。その人こそ、真の「人間王者」だと思います。
 テヘラニアン あたたかいお言葉をいただき、心から励まされる思いです。
 池田 この対談の大きなテーマは、文明間の「開かれた対話」ですが、昨今の世界の動向を見ても、この課題はますます重大な意義があると思います。博士には、縦横無尽に論じていただきたいと思います。
 テヘラニアン 分かりました。そのテーマは、私がもっとも関心をいだいているものです。
 池田 まず「文明」と聞いて思い起こされるのは、シュペングラーやトインビー博士などの学説です。彼らは、人類史を俯瞰するにあたって「興亡するものとしての文明」という概念を提起しました。とはいっても、両者が提起する概念の間には、大きな違いがあったといえます。
 『西洋の没落』を著したシュペングラーの場合、それぞれの文明はたがいに没交渉であり、おのおのそれ自体において完結していると見ました。ただし“誕生から没落へ”という衰退のプロセスのみは同一であり、このプロセスがおのおの繰り返されると規定したのです。
 一方、トインビー博士はそれぞれの文明の発展のプロセスが、必ずしも同一のパターンを繰り返しているとは見ませんでした。
 大著『歴史の研究』で、「挑戦と応戦」という理論を提示しながら論じているように、自然的には同じような条件(挑戦)でも文明の対応(応戦)によって、それぞれの違いが出てくると考えたのです。
 テヘラニアン 「文明」は、つねに魅惑的なテーマです。文明が、生命体のように誕生、若年、熟年、老年、死亡という循環を経ていくという、シュペングラーやトインビー博士らの比喩的一般論は、まさに概説されたとおりです。
 そのほかにも、マルクス、ウェーバー、フロイト、ソローキン、ノルバートエリアス等の思想家や学者をはじめ、多くの人類学者が文化と文明はいかにして出現し、発展し、衰退し、消滅するかという問題を論じてきました。
3  トインビー博士の特筆すべき業績
 池田 私もかねてより、文明史観に深い関心をいだいてきました。トインビー博士からロンドンの自宅にまねかれて、のべ十日間にわたり真剣に語りあったことがあります。二十五年ほど前の、懐かしい思い出です。(一九七二年五月と翌七三年五月に、合計四十時間におよぶ対談を行った)
 対談のなかで確認させていただいたことですが、トインビー博士は人類史における文明の発生と成長をふまえつつ、自然環境自体が民族の創造力の強弱を決めるのではなく、むしろ環境的な困難さにどのように対応するかが文明創造の発条となる、との趣旨のお話をされていました。
 テヘラニアン 池田会長とトインビー博士との対談集は、私もたいへん興味深く読ませていただきました。
 トインビー博士の業績をどのように評価されますか。
 池田 トインビー博士の業績として特筆されるべきは、それまで根強かった「西欧中心史観」を打破する歴史観を提起したという点ではないでしょうか。
 今でこそ文化人類学などの進展によって、西欧的価値観の一元的支配が突き崩され、文化の間に序列などないとする「文化相対主義」が定着してきましたが、トインビー博士はある意味で、その先鞭をつけたのではないかと私は思うのです。
 テヘラニアン 同感です。
 それまでは、西洋こそ「洗練された」文明の絶頂に達しており、それにくらべると他の文化や文明は遅れているという見方が、西洋人の間では支配的でした。
 しかし今日、それはまったく通用しない。“先進性”を誇るといっても、せいぜいこの二世紀の間のことでしょう。それ以外の時代に関しては、だれもそのような見方には賛同しないことは明らかです。

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