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日蓮大聖人・池田大作

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「心田」を耕すということの意味  

「21世紀の人権を語る」A.デ・アタイデ(池田大作全集第104巻)

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1  池田 今回は、「教育と人権」をテーマに進めたいと思います。「世界人権宣言」という、人類の大いなる遺産を受け継いでいく意味でも、私は「教育」の重要性を、強調しても強調しすぎることはないと思っています。
 アタイデ 子どもたちは、われわれの“未来の番人”であり、何世代にもわたって培われた“遺産”の継承者です。「宣言」採択へ向けて検討を重ねた国連の第三委員会において、第二六条「教育の権利」(草案・第二三条)について私は訴えました。
 「教育を受ける権利が万民のものであることは疑いの余地はありません。人類の財産を共有する権利は、現代の文明のベース(基礎)であり、何人に対してもこれを拒否することはできないのです」と。
 池田 私が、若き日愛読した文豪ヴィクトル・ユゴーは『レ・ミゼラブル』において、「あらゆる社会的の麗しい光輝は、科学、文学、美術、および教育から生ずる」「人を作れ、人を作れよ」(豊島与志雄訳、岩波書店)と記しています。未来のために人を作る――ここに、一切の原点がある。終着点があります。「教育」に焦点を定めるところに、「人間性の世紀」「人権の世紀」への確かな軌道があります。
 アタイデ 私はさらに訴えました。
 「教育なしには、人間生活の目的であり、社会のもっとも堅固な基盤である人格を豊かにすることはできません。教育は、進歩のための第一前提であるのです」と。
 池田 総裁のお話をうかがいながら、釈尊の一つのエピソードを思い出しました。
 釈尊が、マガダ国の南山エーカサーラにあったときのことです。古き聖職者のバラモンから「なんじもまた、みずから耕して種まき、みずから収穫して食うがよい」と詰問された釈尊は、「わたしもまた耕して種まく」と答える。『耕田』という仏典には、偈の形式で、釈尊の振る舞いが美しい情景によせて語られています。
 「信は種子なり。調御は雨なり。智慧は軛につなぎし鋤なり。……われら、かくのごとき耘耕をなして、すべての苦悩より脱れたり」と。
 つまり、“信”が、「心田」――人間生命の土壌――に播かれた“種子”となり、この“種子”に雨が降る。雨とは調御、すなわち心身をよく制御することです。そして、“智慧”の鋤で「心田」を耕すことによって“種子”が発芽し、生命に内在する無限の可能性を開花させることができるのです。そこに、すべての苦悩を超克した境涯を築き、永遠に不壊の幸福の人生を歩む根本の軌道があります。
 人間精神の荒野を耕して、豊かな人格を創り、幸福な人生という収穫を得ることは、何にもまして大切なことです。
 明治時代、日本の教育の発展に貢献したクラーク博士は、こう主張しました。
 “国において、国民がいなければ、それは国といっても国ではない。人に心や志がなければ、人といっても人ではない。だから、人の「心田」も耕さなければ、あってないようなものである。ゆえにその国の国民にとって最も貴重なものは、よく耕された「心田」である”と。
 最も大事なものは、人間の心です。「心田」をどう耕すかに一切の根本があります。
 アタイデ 賛成です。教育の問題を無視して、一国が経済的、社会的に発展することは不可能であると強く自覚しています。
 池田 「文化」を意味する“culture”(カルチャー)の語源をさかのぼると「耕す」の意味があり、「土地を耕す」ことから「心の田を耕す」に転じ、やがて「修業・教養」の意味になったとされます。心田を耕し豊饒にしゆくところに、豊かな文化が芽吹き、花咲いていくものです。
 仏典には、「よろこばしきかなや・たのしいかなや不肖の身として今度心田に仏種をうえたる」(「撰時抄」)とあります。心田に「仏種」という、人生の無上の価値を創り、崩れざる幸福を築きゆく種子を植えることの大切さが、いたるところで説かれているのです。
 アタイデ わかります。私の考えでは、教育の問題を論ずる前に、文化について考えるべきだと思います。なぜなら、教育とは、文化的な習慣と研究の成果であるからです。しかし、それは一方が他方に勝っているということではなく、社会のコンセンサス(合意)と習慣に従い、両者が手をたずさえていかなければならないということを意味しています。
 池田 個々人がみずからの無限の可能性に目覚めることによって、国家の発展も人類全体の進歩も実現できるのです。人間一人一人の開花を、「人権」として保障しようとした「世界人権宣言」は、その先駆的業績といえましょう。
 アタイデ 教育によって、人々が「人権宣言の真の擁護者は自身である」と明確に、また客観的に自覚したときに、「世界人権宣言」はその真価を発揮します。

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