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日蓮大聖人・池田大作

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「差異へのこだわり」を超える道  

「21世紀の人権を語る」A.デ・アタイデ(池田大作全集第104巻)

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1  アタイデ 私たちは「世界人権宣言」の作成に、非常な責任感をもって取り組みました。しかし、この対話の対象となるであろう、人権についてのあらゆる課題を、身近なところで解決することはできませんでした。そのためには、まだまだ多くのことをなさねばなりません。
 池田 日常生活のなかに巣くっている、身分の貴賎や貧富の差、文化の違いなどへのこだわりの心の根には、何があるのか。仏法の知見は、それを見事に示しています。
 釈尊は、人間の心に“見がたき一本の矢”が刺さり、その矢によって人間はつき動かされ、苦しんでいると喝破しています。経典には、次のようにあります。
 「わたしはその〔生けるものどもの〕心のなかに見がたき池田煩悩の矢が潜んでいるのを見た」(『ブッダのことば』「スッタニパータ」中村元訳、岩波文庫)と。
 この「矢」とは、「我執」をさすとされます。「我執」とは、「自我」(エゴ)への執着、こだわり、いわゆる“エゴイズム”です。
 アタイデ 仏教の教えは、すべての者にとって親しみやすいものですね。
 池田 難解な教えを、難解なまま話すのは、簡単なことでしょう。しかし、釈尊が、なにより対話を重視したように、人々に理解されなければ、宗教ではないといってよい。
 すべての人々の生命の内奥を分析した、仏法の九識論からみますと、この「我執」を特徴とする心の働きを「末那識」と名づけています。そして、世親は、この「末那識」は「四煩悩と常に倶にある」(『唯識三十頌』)、と述べています。「四煩悩」とは、「我癡」「我見」「我慢」「我愛」の四つです。この「四煩悩」が、人種や民族、文化、宗教への「差別意識」を生むと説明されます。
 ①「我癡」とは、他者に対する“開かれた心”“開かれた自身”を見失って、みずからの小さく閉ざされた殻(小我)に閉じこもっている状態をいいます。
 ②「我見」は、その閉ざされた小我が、真の自分であると錯覚し、偏頗な見方にこだわりつづけることです。そして、他人との比較を始めるのです。
 ③「我慢」は、その小さな自分が、他人と比較して、同等であるとか、優れているとか、さほど劣ってはいない、というように慢心におちいってしまうことです。慢の心にはつねに嫉妬とか、支配欲、金銭欲、権力欲がつきまといます。そして、みずからの慢に流され、正義を見失い、不正に走ってしまうのです。
 ④「我愛」とは、このような煩悩に覆われた自己への執着です。ここでいう愛とは欲愛のことで、小さな自分を守るための、あらゆる貪欲をさします。このような深層の「差別意識」にもとづいて、他の人々への権力・権威による支配・強制といった不正義が行われるのです。
 人種、宗教、民族、文化等のあらゆる領域におよぶ「差別意識」と、その行動の深い生命論的意義とが、ここでは明鏡のごとく映し出されています。
 アタイデ 二十一世紀を担う知性の輝きを感じます。仏教は、いかなる拘束もなく、すべての人間に通ずる、「正義」という本質的な原則にもとづいている。ゆえに、すべての人類の発展の根本となりえるのではないでしょうか。
 池田 この「我執」を、現代的な表現でいえば、「差異へのこだわり」となります。釈尊が、“見がたき一本の矢”を抜き去れ、というのは、「差異へのこだわり」を乗り越えよ、ということです。
 人種差別、民族差別、また他の宗教や文化への偏見、男女、老若などへの差別意識の根にある、「末那識」という根源的エゴイズムを見抜き、打ち破る戦い――そこに抜本的な「人権闘争」への光源があると思います。
 仏法では小我への執着を打ち破り、かのガンジーもめざした、宇宙究極の「真理」の体得――仏性の覚知によって発動する「大我」に生きる非暴力・慈悲の人間道を教えています。
 「大我」に目覚めた生命には、「四煩悩」に代わって、悟りの「智(慧)」の働き、人間が本質的に平等であることを覚知する「平等性智」が輝きわたると説いております。
 現代の世界を覆う、「差異」ゆえの衝突を回避し、「人類共生」の輝かしき未来を築くため、仏法の英知に、私は大いなる可能性をみるのです。
 アタイデ その高い精神性と行動によって、マハトマ・ガンジー、マーチン・ルーサー・キング、ネルソン・マンデラと並び称される、「人権の闘士」「現代の偉大な人物」の一人に、会長を加えたい。
 私は、池田会長を彼らより上位に位置づけたいと思います。なぜなら、全力で活動をつづける会長の高い創造的精神性こそが、新たな世紀の大いなる希望を生み、行動の規律となると確信するからです。
 池田 過分なお言葉に心から恐縮します。総裁のご期待に少しでもお応えできるように、これからも努力してまいります。

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